水稲移植前落水時の湛水深を60mm以下にすると水質汚濁負荷が半減する


[要 約]
 大区画圃場において水稲移植前湛水時の強風による波は田面土壌を巻き上げて、移植前落水による水質汚 濁負荷を大きくする。落水直前の湛水深を60mm以下にすると、水質汚濁物質濃度を抑制し、落水深(排水量)も現状より3割減少するので、移植前落水に伴う水質負荷を約5割削減できる。
[キーワード] 水田、水質、全窒素、懸濁物質、全有機態炭素、全リン
[担 当] 秋田農試・生産環境部・環境調和担当
[区 分] 東北農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
[分 類] 技術・普及

[背景・ねらい]
 閉鎖水系水田地帯において、水系の水質汚濁物質濃度は主に代かき〜移植時に高くなることが指 摘されており、水田からの水質汚濁物質負荷量の抑制が求められる。そこで、八郎潟干拓地内の大区画農家圃場において、水稲移植前落水に伴う水質汚濁物質の排出に関わる要因を解明し、現行の生産体系に取りこみやすい水質汚濁負荷抑制方法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. 現行の作業体系は、浅水で代かき後、移植までにおよそ1週間程度の湛水期間がある。このとき、田面水の懸濁物質(SS)濃度は強風の影響を大きくうける(図1)。これは表層の土壌粒子が強風による波で巻き上げられることが主因である。この地域では移植前の湛水が行われる5月には最大風速6mの風は平均で4日に1日程度の頻度で発生している。
  2. 最大風速6mの風により、水稲移植前落水時の排水中のSS、全有機態炭素(TOC)、全窒素(T-N)、全リン(T-P)など水質汚濁物質濃度が上昇する(表1)。
  3. 落水直前の湛水深が増すと排水中のSS濃度が高くなる傾向がある。また、湛水深が60mm以下の場合、強風によるSS濃度の上昇が抑えられ、その後もSS濃度が低くなる(図2)。
  4. 落水直前の湛水深を現在の平均値程度である60mm以下に抑制することができれば、落水深(排水量)を3割減少させ、水質汚濁物質排出量を約5割削減できる(表2)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 水質汚濁物質の排出量は、移植前落水時の圃場中央部の水深と面積から算出した排水量と、排水開始から一定時間経過後、顕著な濃度変化が見られなくなってから採取した排水の水質汚濁物質濃度から推定した。この方法では、15分間隔で連続的に採水して推定した排出量に比べ、1〜2割程度の違いがある。
  2. 調査期間は1999〜2004年、圃場面積は1.25または2.5haである。調査圃場は強グライ土もしくはグライ土で、全調査数は52点、そのうち39点の作土の土性はHCである。調査圃場の代かき前の施肥は、多くの場合、有機質資材だけを500〜750 kg ha-1程度施用するか、無施肥である。
  3. 農家圃場から水質汚濁物質排出量および排水中の水質汚濁物質濃度は対数正規分布する。

[その他]
 研究課題名 : 閉鎖水系水田地帯における持続性の高い農業生産方式の環境負荷評価と環境負荷
        物質低減技術の開発
 予算区分  : 指定試験
 研究期間  : 2004〜2008年度
 研究担当者 : 原田久富美、太田健、進藤勇人、小林ひとみ

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