丘陵地野菜畑地帯の河川における窒素、リンの流出


[要 約]
 赤黄色土野菜畑地帯の河川では、降雨出水時に河川流量の増加に伴って、窒素濃度は低下するが、逆に、懸濁物質とリンの濃度が上昇する。窒素流出の大部分は平水時の高濃度流出によるものであり、リン流出の大部分が降雨出水時の懸濁態としての流出である。
[キーワード] 野菜畑、降雨、懸濁物質、リン、窒素、流出
[担 当] 愛知農総試・東三河農業研究所・野菜グループ
[区 分] 農業環境、野菜茶業・野菜生産環境、共通基盤・土壌肥料
[分 類] 科学・参考

[背景・ねらい]
 河川、内湾の水質は、流域の土地利用を強く反映する。流域管理の観点から農耕地においても、 窒素、リン等栄養塩の動態・収支の解明に基づく面源対策の開発が急務である。肥料や家畜ふん堆肥が多量施用される露地野菜地域では、これらの資材に由来する栄養塩の流出による河川、内湾の水質汚濁が懸念される。特に、降雨出水時の懸濁物質に伴うリンの流出は、内湾への負荷の観点から重要な問題と考えられる。そこで、露地野菜地域の河川の水質変動調査により、農地からの窒素・リン流出機構を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 対象地域は、赤黄色土が分布する標高35〜70mの丘陵地で、流域面積3.4km2、うち野菜畑が1.8 km2を占め、豚3,900頭、牛1,100頭の飼養される地域である。
  2. 平水時の河川水質(図1の10月18日の値を参照)は、集水域からの地下水流出や畜産排水の影響を受けるため、窒素では、全窒素(TN)、硝酸態窒素(NO3-N)ともに10 mg L-1を超え、リンでも、全リン(TP)は1 mg L-1に近く、リン酸態リン(PO4-P)も0.5 mg L-1を超えるなど高濃度である。
  3. 100mmを超える大降雨時の例では、窒素濃度は出水により低下し、逆に、リン、特にTPは出水に伴い、懸濁物質(SS)とともに高濃度化する(図1)。
  4. SS負荷量−TP負荷量間の相関は非常に強く、傾きが大きい(図2)。TNは平水時にも常時流出が認められるが、TPの大きな流出負荷は、比較的まとまった降雨があった場合に限られる(図3)。
  5. 降雨時に増加する流出負荷を出水時流出として平水時の流出と比較すると、窒素では、2004年10〜12月の3か月間で、3.4km2の流域から合計16,953kgが流出し、そのうち出水時流出は14%である。一方、リンは合計3,253kgが流出したが、そのうち出水時流出は84%と非常に多い。
  6. 以上のように、リンの多くは降雨出水時に懸濁態として流出するため、リン流出負荷の評価には、降雨出水時の状況把握が不可欠であり、河川、内湾の水質保全のためには土壌侵食防止が重要である。窒素については、平水時の高濃度流出に関する評価と対策がより重要である。
[成果の活用面・留意点]
  1. 赤黄色土地帯における窒素、リン流出に関する知見として活用できる。
  2. 集水域の地形や降雨強度によって、直接流出・間接流出の割合が異なれば、流出の量、様相は異なる可能性がある。

[その他]
 研究課題名 : 露地野菜地域の養分収支の解明による小河川を対象とした養分管理技術の開発
 予算区分  : 国委託
 研究期間  : 2004年度
 研究担当者 : 糟谷真宏・荻野和明・今川正弘・坂西研二(農環研)

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