外来昆虫ブタクサハムシの飛翔による分布拡大能力


[要約]
北米原産の外来昆虫であるブタクサハムシ成虫の飛翔活動は,羽化後日数および季節,日長の影響を受ける。飛翔時間の個体変異が大きく,移動性の高い個体が分布拡大に寄与する。1日当たり最大飛翔距離は25km以上と推定され,1年間に100km以上移動可能と考えられる。 
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 昆虫研究グループ 個体群動態ユニット
[分類]学術

[背景・ねらい]
 外来昆虫の分布拡大を予測するためには,飛翔による移動能力を定量化し,飛翔活動に影響する要因を明らかにすることが重要である。ブタクサハムシは北米原産の外来昆虫である。日本では1996年に千葉県で初めて発見されたが,それ以来急速に分布を拡大し,現在は青森県から鹿児島県までの全県で見つかっている。初期には,年間100km以上の速度で分布を拡大し,外来昆虫の中でも分布拡大速度が非常に大きい。一方,寄主植物であるブタクサを食い尽くすことがしばしば観察され,定着性が高いとも考えられる。そこで,本虫の飛翔活動を測定して,飛翔活動に影響を及ぼす要因を明らかにし,分布拡大能力を推定する。
[成果の内容・特徴]
  1. 実験室(25℃,日長16時間)において飛翔測定装置(フライトミル)を用いてブタクサハムシ成虫の23時間当たり飛翔時間を測定して,平均飛翔時間および1分より長く飛翔した個体の割合を算出し,飛翔活動の指標とする。
  2. 飛翔活動性は羽化後4日目から増加し,7日目以降は長期間高い値を維持する(図1)。
  3. 生殖休眠し越冬する第4世代は,他の世代に比べて飛翔活動が低い(図2)。休眠を誘起する短日(日長12時間)で幼虫〜成虫期間を飼育した成虫は,長日(日長16時間)で飼育した成虫に比べて有意に飛翔活動が低い。このことから,短日または休眠が飛翔活動の低下を引き起こすこと,また秋に越冬地に向かって移動しないことが考えられる。
  4. 飛翔時間は個体間に大きな変異がある(図3)。60分より長く飛翔した個体および全く飛翔しなかった個体を人為選抜すると,よく飛ぶ系統と飛ばない系統となり,飛翔活動性の遺伝変異が大きいことを示している(図4)。遺伝変異の大きいことから,野外においても移動性の高い個体と低い個体の両方が存在し,前者が分布拡大に寄与していると考えられる。
  5. 23時間当たり最大飛翔時間は385分であり,この値と平均飛翔速度(1.1m/秒)を乗ずると約25km飛翔することになる。飛翔活動性は,短日の季節以外は高く,世代内でも長い期間高い。このことから,野外で1世代に少なくともこの距離を飛翔により分布拡大すると仮定すれば,1年間には4世代で100km以上移動することが可能であり,移動能力が高いと考えられる。
[成果の活用面・留意点]
  1. 外来昆虫の飛翔活動を測定したデータは,分布拡大の予測に活用できる。ただし,野外では風などの気象条件も考慮する必要がある。
  2. 本虫による雑草(ブタクサ,オオブタクサ)の抑制を検討する際に,移動分散予測の基礎資料となる。ただし,ヒマワリを食害し被害を与えることがあるので注意する。
  3. 今後,越冬後の飛翔活動についても調査する必要がある。

具体的データ


[その他]
研究課題名 :寄主植物の空間分布および資源量がブタクサハムシ等の個体群動態に与える影響の解明
(寄主植物の空間分布がハムシ等の個体群動態に与える影響の解析)
予算区分  : 運営費交付金
研究期間  : 2005年度(2001〜2005年度)
研究担当者 : 田中幸一,山中武彦
発表論文等
1)田中・山中,日本昆虫学会第63回大会講演要旨集,88(2003)
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