農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

普及に移しうる成果 4

京都議定書第一約束期間の開始を前に、農耕地から発生する
亜酸化窒素の新しい排出係数を算定

[要約]
農耕地から発生する亜酸化窒素(N2O)について、実測データを用いて国独自の排出係数を算定しました。この排出係数の改訂案は、日本国温室効果ガスインベントリ報告書に採用されたことから、わが国の温室効果ガス排出量算定に大きく貢献します。
[背景と目的]
 京都議定書の第一約束期間(2008年〜)の開始を前に、2007年までに日本の温室効果ガスインベントリの推計システム*1を整備することが必要とされていました。今までの日本の農耕地土壌からのN2O排出量算定は、国独自の排出係数*2を用いていました。しかし、(1)バックグラウンド排出量(肥料を施用しない場合にも発生するN2Oの量)が差し引かれていない、(2)各作物種について限られた数(1〜6地点)のデータから求められているなどの問題点が指摘されていました。そこで、この問題点を解決し、排出係数の改訂案を提示することを目的としました。
[成果の内容]
 新たに日本の農耕地から発生するN2Oのデータベースを整備・解析しました(表1)。その結果、日本の畑地および水田からのN2Oの排出係数はそれぞれ0.62%および0.31%と算定され、IPCCデフォルト値(IPCCガイドラインにおける基本の排出係数、1%、IPCC、2006)よりも、低いことが明らかになりました。一方、茶については、2.9%と算定され、IPCCデフォルト値よりも高いことが明らかになりました。これらの結果と、間接排出(地下水を経由して河川から海洋へ輸送される過程で発生するN2O)についての解析結果(農業環境研究成果情報第22集)をあわせ、新しい排出係数を提案しました(表1)。
 本研究により提案した新しいN2O排出係数の改訂案は、日本国温室効果ガスインベントリ報告書(環境省)の最新版(2006年8月)に採用されました。

*1 国別インベントリはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)ガイドラインに沿って算定する必要がありますが、(1)自国のデータが十分にない場合は基本の排出係数を用いた算定方法(2)自国のデータが十分にある場合は国独自の排出係数を用いた算定方法が推奨されています。

*2 排出係数:施肥窒素あたりのN2O発生率

本研究は環境省地球環境総合推進費「S2:陸域生態系の活用・保全による温室効果ガスシンク・ソース制御技術の開発−大気中温室効果ガス濃度の安定化に向けた中長期的方策−」による成果です。

リサーチプロジェクト名:温室効果ガスリサーチプロジェクト

研究担当者:物質循環研究領域 秋山博子、八木一行、顔暁元(海洋研究開発機構、現中国科学院南京土壌研究所)

発表論文等:1)Akiyama, H., Yan, X., and Yagi, K., Soil Science and Plant Nutrition, 52, 774-787(2006)

      2)Akiyama, H., Yagi, K., and Yan, X., Global Biogeochem. Cycles, 18, GB2012(2005)

      3)Sawamoto, T., Nakajima, Y., Kasuya, M., Tsuruta, H., and Yagi, K., Geophys. Res. Let., 32, L03403(2005)

図表

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