農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 7

トンボの生息環境としてのため池の特徴

[要約]
ため池に生息するトンボの種類は、(1)樹林に囲まれ水底に落葉などが多い池を好むグループ、(2)開放的で大きな池を好むグループ、(3)色々な環境の池に生息するグループなど異なる6グループに分けられました。トンボの保全のためには(1)と(2)両方の池の環境を維持することが重要です。
[背景と目的]
 ため池は水生生物の重要な生息場所であり、わが国の水生植物やトンボの約半数の種がため池に依存しています。農業用水の供給方法の変化や都市化のために、ため池は急激に数を減じ、また、環境も悪化していると言われ、ため池に生息する生物には絶滅に瀕しているものが少なくありません。ため池の生物を保全するためには、その生息に好適な環境を知る必要があります。そこでため池を代表する昆虫であるトンボを対象として、ため池および周囲の環境と生息するトンボの種構成との関係について研究を行いました。
[成果の内容]
 茨城県筑波山南東麓の地域にある74か所のため池において、生息するトンボの種構成とため池の環境について調査を行い、調査結果を多変量解析により解析しました。
 ため池は、トンボの種構成が類似した6つのグループに分けられました(表1)。
 調査地全体で合計41種のトンボが確認されました。その中から各グループの池でよく見られる種(指標種)を選ぶため指標種分析をした結果、グループ1、2、4を指標するトンボ数種が選ばれました(表1)。
 各ため池の環境の特徴を調べるため、序列化(特徴が似た池が近くにくるように座標上に配置すること)をしました(図1)。その結果、グループ2の池の特徴は樹林に囲まれ落葉などの堆積物が多いこと、グループ4の特徴は周囲が畑や荒地など開けた環境であり池面積が大きいことでした。グループ1は特別の特徴をもたず、指標種は多くの池にいるトンボでした。グループ5、6は護岸された特徴をもち、生息する種数が少なく指標種も選ばれなかったことから、トンボの生息に不適であることが示されました。
 以上の結果から、トンボの保全には、グループ2や4のように異なる特徴をもつ池の環境を維持することが重要であると分かりました。
本研究は農林水産省委託研究費「自然共生」による成果です。

リサーチプロジェクト名:水田生物多様性リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域 田中幸一、山中武彦;生態系計測研究領域 岩崎亘典、

      デイビッド・スプレイグ;農業環境インベントリーセンター 中谷至伸

発表論文等:1)スプレイグ、田中、農における自然との共生U、農林水産省農林水産技会議事務局:85-102(2006)

      2)田中、水環境保全のための農業環境モニタリングマニュアル改訂版、農業環境技術研究所:

      195-200(2007)

      3)山中ら、農土誌、73: 319-324(2005)

図表

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