農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 8

谷津田を囲む斜面林周辺の草刈りが植物の多様性を高める

[要約]
谷津田周辺や台地上に見られるススキを主体とした草地を調査し、過去の植生調査資料を比較した結果、谷津田を囲む斜面林の周辺で定期的に草刈りが行われている場所(裾刈り草地)ではかつての半自然草地と同様に多くの多年生在来草本を含む植物群落が維持されていることがわかりました。
[背景と目的]
 農村地域にはかつて肥料源や飼料を採取する場としてススキを主体とする多様な草原性植物から構成される半自然草地が広く見られましたが、このような半自然草地は国民の生活様式の変化により著しく減少しました。その結果多くの草原性の動植物が絶滅の危機に瀕しています。畑の放棄地や造成跡地には現在も多くのススキ群落が見られますが、そこには草原性の動植物がいないと言われています。一方、谷津田では田面が日陰になるのを防ぐため、水田を取り囲む斜面林の下部で定期的に草刈りが行われる場所(「裾刈り草地」と呼びます)は、ススキを主体とした草地が形成されています。そこで、裾刈り草地における植物の多様性を、造成跡地や過去に調査された半自然草地と比較しました。
[成果の内容]
  1. 筑波・稲敷台地のススキを主体とする様々な草地(計66地点)の植生を調査し、多変量解析を用いて分類した結果、主に谷津田を取り囲む斜面林周辺に分布するタイプ(C1:谷津型)、主にアカマツ林の林床に分布するタイプ(C2:松林型)、台地上の平坦部に分布するタイプ(C3:平地型)に区分できました(表1)。このうち、C1、C2は水田耕作上の理由(日陰を作らない)や松林の管理のため、毎年草刈りが行われている場所であるのに対し、C3は台地上の平坦部に見られる畑作放棄地や造成跡地などの未利用地で管理が行われていない場所でした。
  2. 各タイプの種組成を、多変量解析を用いながら、入手可能な最も古い植生調査資料(1970年〜1980年代)から抽出した関東平野の半自然草地(飼料や肥料、茅を採取していた草地)の種組成と比較検討しました。その結果、C1はC2とともに、過去の半自然草地と同等に、ワレモコウなど、在来の多年生草本植物が豊富なことがわかりました(表1、図1)。また、谷津田の裾刈り草地には、過去の半自然草地と同じように多くの希少植物が見られました(表2)。一方、C2は多年生草本に加え木本種が多いことにより、C1に比べて多様性が高くなりました。
  3. これらのことから、谷津田を囲む斜面林の周辺の草刈り(図2)が植物群落の多様性を維持していることがわかりました。

リサーチプロジェクト名:水田生物多様性リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域 楠本良延、山本勝利、天野達也、徳岡良則、山田晋

図表

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