はじめに
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- 本年2月1日にパリで開かれた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会」が承認をした第4次評価報告書は、地球の温暖化は確実に進んでいること、その原因は人間活動による温室効果ガスの排出である可能性がかなり高いことを確認した。さらに、このIPCC報告書は、6つのシナリオを示し、世界の平均気温と海面の上昇について将来を予測している。21世紀末の平均気温の上昇が、1980年〜99年に比べ、最良の予測値で2度以下になるのは、省資源で環境に配慮した持続型社会のシナリオだけであることを、私たちは知らされた。
地球の温暖化が確実に進んでいるとすれば、農作物など農業生態系に与える影響はどうなるのであろうか。温暖化の原因が人間活動による温室効果ガスの排出であるとすれば、農業生産活動による温室効果ガスの排出はどうなのであろうか。地球変動の問題がにわかに私たちの身近な問題としてクローズ・アップされるようになった。こうした問題のみならず、外来生物や遺伝子組み換え生物の農業生態系への影響、さらには有害化学物質の農業生態系への影響など、農業環境をめぐる「未知のリスク」を解明するとともに、それらリスクを制御し管理する技術の開発が重要な課題となっている。
私たちの研究所は、平成18年度を開始年とする第二期中期計画における研究計画では、農業生産環境の安全性を確保するための基礎的な調査および研究に重点を置き、三つの大課題、すなわち、1)農業環境のリスクの評価及び管理技術の開発、2)自然循環機能の発揮に向けた農業生態系の構造・機能の解明と管理技術の開発、3)農業生態系の機能の解明を支える基盤的研究、を掲げている。
この中期計画を遂行するにあたっては、15のリサーチプロジェクト(RP)を組織するとともに、これらを支える基礎知識(ディシィプリン)を深めるための営みを行なう単位として7つの研究領域と1つのセンターを組織している。これらは、ギボンズらが「知識の創造」概念として提示する2つの「モード」、すなわち、「モード2」と「モード1」にそれぞれ対応するものとなっている。
こうした新たに組織された研究体制のもとに、18年度に実施した研究の中から主要な成果を選定した。本書は、その「主要研究成果」と、「普及に移しうる成果」を掲載している。「普及に移しうる成果」は、「主要研究成果」の中から選定した。行政部局、検査機関、民間、他の試験研究機関(他独法、大学等)および農業現場等で活用されることが期待され、研究所としても積極的に広報活動および普及活動を行なうべき重要な成果である。本書に採録されている成果が、「知識の創造」に寄与することはもとより数々の局面において役に立つものと確信している。
本書が、皆様にとって有意義な情報になることを願うとともに、皆様からの忌憚のないご意見を得て、私たちの研究が更に深化する契機となることを期待したい。
平成19年3月
独立行政法人 農業環境技術研究所
理事長 佐藤 洋平