農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

普及に移しうる成果 1

コガタシマトビケラ1齢幼虫を用いた農薬の急性毒性試験法マニュアル

[要約]
コガタシマトビケラ1齢幼虫を用いた農薬の急性毒性試験法を開発し、マニュアルを作成しました。河川生態系の一次消費者である水生昆虫を対象として、農薬の生態影響の評価に利用できます。
[背景と目的]
日本の農薬登録制度では、農薬の生態系への影響を評価する際に、湖沼生態系の一次消費者を代表するミジンコ類を試験生物種として用いて急性毒性試験を行いますが、水稲用農薬による汚染が懸念される河川生態系の一次消費者に対する影響を適切に評価できる試験生物種と試験法は確立されていません。そこで日本の河川において重要な一次消費者である水生昆虫のコガタシマトビケラに着目して、感受性の高い1齢幼虫を用いた農薬の急性毒性試験法を開発し、マニュアルを作成しました。
[成果の内容]
 マニュアルでは、コガタシマトビケラ1齢幼虫の性質にあわせて開発した急性毒性試験法について平易に解説しています。また試験事例として代表的な殺虫剤の1齢幼虫に対する毒性データを紹介しています。マニュアルの主な構成と特徴は以下の通りです。
  1. III章では、コガタシマトビケラの生態、1齢幼虫の特徴・性質について概説しています。
  2. IV章では、試験生物の取り扱いを含めた急性毒性試験法を解説しています。試験する農薬の性質によって試験法・試験条件を適宜、選択することができます(図1)。また急性毒性の判定は、水流刺激に対する1齢幼虫の伸身開脚反応の有無で判定しますが、その方法及び基準について詳細に解説を行っています(図2)。
  3. V章では、開発した急性毒性試験法を用いた試験事例を紹介しています。30種類の殺虫剤の1齢幼虫に対する急性毒性を調べると、既存の試験生物種であるミジンコ類と比べ、1齢幼虫に対する急性毒性は、殺虫剤によっては1,000〜100,000倍も高いことが判明しました(図3)。この結果から河川生態系に対する農薬の影響を評価する際に、本種は有用な試験生物であるといえます。
 農業環境技術研究所のウェブサイトより、本マニュアルおよび累代飼育法を解説した「コガタシマトビケラの飼育法マニュアル」の電子ファイル(PDF)をダウンロードして入手できます。また希望者には印刷物を配布します。
本研究は、農林水産省農林水産技術会議事務局の委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:有機化学物質リスク評価リサーチプロジェクト
研究担当者:有機化学物質研究領域 横山淳史、大津和久、堀尾剛

図表

図表

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