農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 18

黒ボク土畑下層における不均一な水移動の定量化

[要約]
ほ場条件下の土壌中における不均一な水移動を、ダルシー式に従い巨視的に見て水平方向に均一とみなせる流れ(マトリックス流)と部分的に速い流れ(選択流)に区別して定量化する手法を開発しました。農環研内の黒ボク土畑下層の深さ1mでは、選択流が年2〜7回発生し、その量は年浸透水量の16〜27%に相当することを明らかにしました。
[背景と目的]
土壌中では、粗孔隙の存在や土壌マトリックスの不均一な水理学的性質等により、土壌中の一部分を水が選択的に流れる現象(選択流)が生じます。選択流中の溶質濃度は、しばしば、土壌マトリックス内を比較的ゆっくりと流れるマトリックス流中のそれとは大きく異なる値を示すことが知られています。したがって、地下水汚染物質等の輸送過程を説明・予測するためには、マトリックス流と選択流を区別して定量する必要があります。しかし、これまで、これらの流量をほ場条件下で区別して定量する方法がありませんでした。そこで、土壌水分状態をほぼ自然のまま測定できるTDRプローブとテンシオメータによる観測値を用いて土壌中の不均一な水移動を定量化する手法を開発すると共に、ほ場条件下での選択流量の年次変化を明らかにする研究を行いました。
[成果の内容]
 農環研内の黒ボク土畑ほ場において、深さ1mの体積含水率、深さ90および110cmの圧力水頭を測定し、深さ1mを横切るマトリックス流(ダルシー式に従い巨視的に見て水平方向に均一とみなせる流れ)を算出しました(図1)。さらに、深さ1mまでの平均体積含水率の実測値から保水量を求め、降雨開始から終了直後までの期間の土層内水収支より、選択流(土壌中の一部分を急速に流下する流れ)量を推定しました(図1)。
 図1の降雨イベントでは、深さ1mから鉛直下方へのマトリックス流量が合計24.1mmであったのに対して、選択流は合計48.7mm発生しました。このことから、選択流が大雨時の急速な下層排水に大きく貢献したことが分かります。農環研内の黒ボク土畑ほ場における7年間(1997〜2003年)の観測結果より、深さ1mから鉛直下方への選択流は年2〜7回しか発生しないこと、それにも関わらず、その量は年浸透水量の16〜27%に達することが分かりました(図2)。
 このように、黒ボク土畑における大雨時の排水性や地下水涵養に対して、選択流は重要な役割を果たしています。これらの知見は、黒ボク土畑からの硝酸性窒素等の地下水汚染物質の溶脱過程の実態解明および予測モデル開発等に貢献します。
リサーチプロジェクト名:栄養塩類リスク評価リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 江口定夫、長谷川周一(現:北海道大院)
発表論文等:1) Hasegawa and Sakayori, Soil Sci. Plant Nutr., 46: 661-671 (2000)
      2) Hasegawa and Eguchi, Soil Sci. Plant Nutr., 48: 227-236 (2002)
      3) Eguchi and Hasegawa, Soil Sci. Soc. Am. J., 72: 320-330 (2008)

図表

図表

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