農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 23

天水田地帯の水稲収量を推定する簡易モデル

[要約]
地球規模の気候変化とそれに伴う水循環変動が農業生産へ与える影響を評価する枠組みの一環として、降水量などの気象要素、作物の水と窒素利用から、天水田地帯における水稲地域収量の趨勢と変動を合理的に説明・予測するモデルを構築しました。
[背景と目的]
天水田は世界のコメ生産面積の約1/3を占める重要な生産環境です。天水田の稲作は、植え付け時期や栽培期間が降雨に強く依存するため、今後予想される気候変化や水循環変動による影響が懸念されています。これまでに圃場スケールの収量を予測するモデルは構築されていますが、地域スケールでの収量変動を定量的に評価する手法がなく、そのことが気候変化の影響予測の不確実性要因となっています。そこで、天水田が多く分布する東北タイを対象に、主要な変動要因を取り入れた簡易収量予測モデルの構築を目的としました。
[成果の内容]
 開発したモデルは、降水パターンなどに依存する稲作暦を推定する部分と水稲の成長・収量を予測する部分からなります。稲作暦については、東北タイにおける農家聞き取り調査を基に、3ヶ月に及ぶ移植日の地域内分布(移植水田割合)を降水パターンからモデル化しました(図1)。また、移植日ごとの生育日数は日長と気温の関数で再現することができました(図2)。水稲の収量予測については、作物の水利用に比例した乾物生産と収穫指数の積からなる一般的な簡易収量モデルに、投入窒素の影響を取り入れたモデルを新たに開発しました。なお投入窒素量は、FAO統計から容易に入手できるものを使用しています。地域収量は、移植日ごとに計算した収量を日々の移植水田割合で重み付けすることで求めます。このように地域内の移植日の分布を考慮することで、東北タイの県別収量の地理的、時間的変動をよく説明することができました(図3、4)。また、投入窒素の影響を導入することにより、過去25年間の県別収量の増加趨勢を再現できるようになったことも、本モデルの重要な特徴です(図4)。気候シナリオと組み合わせることによって、将来の収量変動の予測に利用できます。また,このモデルは天水田用に開発しましたが、基本的なモデル構造は潅漑地域においても適用可能です。プログラムやフローチャートを含むモデルの詳細はマニュアル(発表論文等3)を参照ください。
本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「水循環変動」、交付金プロジェクト「コメ生産」による成果です。
リサーチプロジェクト名:作物生産変動要因リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 長谷川利拡、澤野真治、桑形恒男、石郷岡康史、早野美智子、後藤慎吉、鳥谷均
発表論文等:1) Hasegawa et al, Paddy and Water Environment, 6: 73-82 (2008)
      2) Sawano et al, Paddy and Water Environment, 6: 83-90 (2008)
      3) 農林水産省委託プロジェクト「水循環」モデル連絡会編「AFFRC 水−食料モデルの統合化ハンドブック」
      2008年3月(発行者:プロジェクト事務局、農村工学研究所農地・水資源部水文水資源研究室 Tel 029-838-7538)

図表

図表

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