農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 25

群落光吸収率・光利用効率の遠隔評価のための新反射スペクトル指数

[要約]
反射スペクトルデータから群落光合成パラメータを精度よく安定的に評価するための新規指数を策定しました。リモートセンシングによって作物群落や陸域生態系のバイオマス生産量・CO2フラックスを広域的に評価するための基礎として多方面に活用されます。
[背景と目的]
地球規模の炭素循環における陸域植生の機能や作物生産力の広域評価のため、衛星データとプロセスモデルを用いた研究が広く進められており、光吸収率などの重要な群落光合成パラメータをリモートセンシングで計測する方法が強く期待されています。そこで、最適な新規評価指数を開拓するため、植被特性・分光特性に関する精密計測が可能な水田生態系のデータに基づいて、群落光合成パラメータの評価指数を探索しました。
[成果の内容]
 均一な水稲群落(つくば市真瀬;農家圃場)を対象に、渦相関法によるCO2フラックス、微気象因子、葉面積指数等の群落形質、および高波長解像度反射率データ(波長範囲400〜2400nm, 解像度1nm)を3ヵ年にわたって取得し、群落総光合成量、光吸収率、光利用効率、量子収率等の群落光合成パラメータを算出しました。晴天日中の光利用効率瞬時値は日平均値や週平均値とも密接な関係にあります(図1)。これらパラメータのうち理論・応用面で特に重要な光合成有効放射吸収率fAPARおよび吸収光を物質に変換する際の光利用効率εGについて、推定力・安定性に優れた正規化分光反射指数NDSI[Ri, Rj]を探索しました(図2)。この正規化処理は簡易ながら大気補正効果を持つことが知られています。
    NDSI[Ri, Rj]=(Rj-Ri)/(Ri+Rj)     RiとRjは波長i nmとj nmの分光反射率
 光吸収率fAPARを精度よく推定する指数として、NDSI[420, 720]とNDSI[410, 550]を見出しました(それぞれr2=0.90, r2=0.84)。従来多用されてきたNDVI(NDSI[660, 830]に相当)(r2=0.69)などの指数は栄養生長期しか適用できなかったのに対して、これら新規指数では全生育期間を通じて一貫性が高く、高精度で安定した推定が可能になりました(図3左)。
 光利用効率εGについては、推定力が高い指数としてNDSI[710, 410](r2=0.68)、NDSI[710, 530](r2=0.69)、NDSI[550, 530](r2=0.64)を策定しました(図3右)。また、現在世界的に研究されているPRI=NDSI[570, 531]は群落スケールでは弱い推定力しかなく(r2=0.01)、既存指数の中ではNPQI=NDSI[435, 415]が比較的高い推定力(r2=0.65)をもつことを明らかにしました。
 これらは、衛星による地球規模での炭素循環把握のためのCO2フラックスやバイオマス生産力の評価研究において多用されているNDVIやPRI等の既存指数に比べ、さらに有望な指数として、作物生産、陸域生態系、地球科学等関連研究分野での活用が期待されます。
リサーチプロジェクト名:農業空間情報リサーチプロジェクト
研究担当者:生態系計測研究領域 井上吉雄、大気環境研究領域 宮田明、間野正美
発表論文等:Inoue et al., Remote Sensing of Environment, 112: 156-172 (2008)

図表

図表

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