農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 26

空間情報技術による山岳アジア焼畑生態系の
土地利用履歴と炭素ストックの広域評価

[要約]
食糧生産と植生資源、生態系における炭素ストック(炭素保有量)が不可分の関係にある東南アジア山岳地帯の焼畑生態系における問題解決のために、現地検証と時系列衛星画像により土地利用履歴を同定し、焼畑面積と連続期間、休閑群落齢等を定量化し、生態系炭素ストックの実態とその改変シナリオ間の比較を可能にしました。
[背景と目的]
焼畑はアジア山岳地帯の広範な地域で重要な食糧生産システムです。しかし、面積の拡大と休閑期間の短縮が急速に進み、土地生産性・労働生産性の低下だけでなく、森林資源の劣化とCO2の放出、土壌浸食、生物多様性の損耗等が懸念されています。食糧生産、地域植生資源の涵養と生態系炭素ストックの増強を総合的に考慮した新しい生態系管理指針を導くため、空間情報技術に基づいた広域的な土地利用・生態系炭素ストックの定量的解明が不可欠となっています。
[成果の内容]
 焼畑が主な食糧生産システムであるラオス北部山岳地帯(約150km×150km;図1)を対象に衛星画像・地形図・気象資源等の最も完備した空間情報データセットを構築しました。
 30年以上の期間にわたるLandsat衛星および最新の高解像度衛星(QuickBird/IKONOS)の多波長データを用いて領域区分化とポリゴン生成処理を行い、焼畑パッチを高精度で検出し(図2)、経年的に重ねあわせることで、詳細な年々変動を把握しました。これにより、焼畑面積、連続利用期間、休閑期間、樹林地の樹齢分布を空間的に明らかにしました。
 焼畑面積率は多くの地域で約8〜13%でした。過去10年の年増加率は3〜5%で、いまだ減少する傾向は認められていません(図3)。焼畑利用地の約77%が1年利用後放棄され、約94%程度が2年以下の利用で放棄されています。また、短期休閑地が顕著に増加し、休閑10年以内が約60%を占めることがわかりました。
 さらに、群落齢の面積分布から焼畑-休閑利用パターンごとの面積比率(図5)を求め、現地調査に基づいた土壌炭素・休閑群落炭素の評価モデル(図4)と統合して、生態系炭素ストックのシナリオ間比較を可能にしました。現状の短期休閑主体の生態系管理を続行するシナリオの場合、生態系炭素ストックは作付開始直前レベルに対して5.9tCha-1程度と低く(図6)、2年作付+10年休閑のシナリオに移行することで、生態系炭素ストックは約1.67tCha-1yr-1(20年間平均値)増加すると算定されました。これを実現するためのシナリオのひとつとして多収稲品種やカジノキを組合せた作付システムについて検討し、食糧生産性、労働生産性および森林資源涵養効果を向上させ、地域内総収益も増強できる可能性を示しました。
 類似焼畑生態系で進行しつつある資源劣化問題に対する現地対策、および国際的な炭素固定対応策等を支援するための基礎情報として役立ちます。
リサーチプロジェクト名:農業空間情報リサーチプロジェクト
研究担当者:生態系計測研究領域 井上吉雄
発表論文等: Inoue et al., International Journal of Remote Sensing, 28: 5641-5647 (2007)

図表

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