農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成20年度(第25集)

普及に移しうる成果 4

性フェロモンを利用した
ナシマダラメイガの発生予察用誘引剤

[要約]
ナシマダラメイガの性フェロモンには(Z)-9-ペンタデセニルアセテートとペンタデシルアセテートが含まれていることがわかりました。これら2成分の混合物を誘引剤として利用することで、この害虫の発生予察を行うことができます。
[背景と目的]
ナシマダラメイガAcrobasis pyrivorella(Matsumura)はナシの花芽や幼果を加害する重要害虫です。1頭の幼虫が複数の果実を加害するため、個体数が少なくても大きな経済的被害を与えることがあります。この虫の発生予察を効率よく行うための誘引剤の開発を目的として、オス成虫を誘引するメスの性フェロモン成分を同定しました。
[成果の内容]
 ナシ被害果から羽化したナシマダラメイガのメス成虫から性フェロモンを抽出し、ガスクロマトグラフ-質量分析計によって分析したところ、(Z)-9-ペンタデセニルアセテート(Z9-15:OAc)とペンタデシルアセテート(15:OAc)が主成分として含まれていることがわかりました(図1)。次に、これらの成分が、実際に野外のオス成虫に対する誘引性をもっているかどうか確認するため、化学的に合成したZ9-15:OAcと15:OAcを誘引源とするトラップ(図2)を用いた野外調査を実施しました(調査場所:長野県下伊那郡のナシ園、調査期間:2007年6月〜8月)。その結果、0.3mgのZ9-15:OAcを含浸させたゴムを誘引源とした場合、18日間で合計27頭のオス成虫を捕獲することができました。これに7%の15:OAcを加えると誘引力が増加しました(図3)。一方で、工業的に合成したZ9-15:OAcに混入するE体(E9-15:OAc)は、10%添加してもほとんど誘引力に影響しなかったため(図3)、化合物を精製することなく使用できることがわかりました。また、性フェロモン(Z9-15:OAcに7%の15:OAcを加えた混合物)の含浸量が多いほど多数のオス成虫を誘引できることもわかりました(図4)。以上の結果、Z9-15:OAcに15:OAcを7%加えた混合物により、ナシマダラメイガのオス成虫を効率よく誘引できることがわかりました(特許出願中)。この混合物を誘引剤として本種の発生予察等に利用することができます(図5)。

リサーチプロジェクト名:情報化学物質生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 杉江 元、田端 純、南島 誠(長野県南信農業試験場)、望月文昭、福本毅彦(信越化学工業株式会社)
発表論文等:
 1) 杉江ら、特願2008-205253(2008)
 2) Tabata et al., Journal of Chemical Ecology, 35: 243-249.(2009)

図表


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