農業環境技術研究所
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平成20年度 (第25集)
主要研究成果 1
河川における水稲用除草剤の分解物の消長と藻類に対する急性毒性
[要約]
4種類の水稲用除草剤及びその分解物の河川水中濃度を経時的に測定したところ、そのうち2種類の除草剤で分解物の水中最高濃度の方が、除草剤そのものより高くなりました。しかし、分解物の水中最高濃度は藻類(緑藻と珪藻)の半数影響濃度よりもかなり低かったので、分解物による藻類への影響は小さいと考えられました。
[背景と目的]
水田で使用される農薬は河川等の環境中へ流出しやすいことが知られています。農薬によっては、光や微生物によって環境中で速やかに分解されるものありますが、そこで生成される分解物は、現行の農薬登録制度上での農薬影響評価において考慮されていません。本研究では、水田で広く使用されている水稲用除草剤とその分解物について、河川での消長と水生生物の藻類に対する急性毒性を調べました。
[成果の内容]
水田が多い茨城県南部の桜川中流域における水稲用除草剤は、田植え直後の5月上旬に最高濃度に達するのに対して、分解物はこれに少し遅れて最高濃度に達することが明らかになりました(
図1
)。水稲用除草剤と分解物の水中最高濃度を比較すると、両者がほぼ同程度のもの(カフェンストロール)、分解物の方が低いもの(ブロモブチド)、分解物の方が高いもの(ピラゾレートやクロメプロップ)など、除草剤によって大きく異なることがわかりました(
図2
)。
水稲用除草剤と分解物に対する藻類の半数影響濃度を調べたところ、藻類に対する急性毒性は分解物の方が同程度〜3000倍以上低くなる傾向が見られました(
図2
)。
今回の調査結果では、水稲用除草剤及び分解物の水中最高濃度は、藻類の半数影響濃度に比べて20倍以上低いことがわかりました。したがって、分解物の水中最高濃度の方が高かったピラゾレートやクロメプロップであっても、桜川中流域においてはこれらの分解物による藻類への影響は小さいと考えられました(
図2
)。
以上のように、農薬によっては河川での分解物の水中最高濃度が農薬より高まることがあるので、水生生物に対する農薬の影響を総合的に評価するには、農薬の分解物の河川水中での消長や水生生物に対する急性毒性も調べる必要があります。
リサーチプロジェクト名:有機化学物質リスク評価リサーチプロジェクト 研究担当者:有機化学物質研究領域 岩船敬
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