農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成20年度 (第25集)

主要研究成果 2

ヘキサクロロベンゼン(HCB)を好気的に分解・無機化する細菌の単離・同定と主要代謝経路の解明

[要約]
ペンタクロロニトロベンゼン(PCNB)を炭素・窒素源とした土壌・木炭還流法により単離した細菌PD653株はPOPs(残留性有機汚染物質)であるHCBを好気的にPCP(ペンタクロロフェノール)に変換し、さらに脱塩素分解・無機化できます。Nocardioides属に属する新種で、世界で唯一のHCB資化性菌です。
[背景と目的]
ヘキサクロロベンゼン(HCB)はPOPs条約(2001年5月に採択された国際条約)の対象物質ですが、これを好気的に分解・無機化出来る微生 物は報告されていません。そのため、環境中に長期間残留しているHCBのバイオレメディエーション(環境修復)技術の開発が進んでいません。農業環境技術 研究所では、これまでに我々が開発した土壌・木炭還流法を用いてHCBの類似化合物であるPCNBを分解する細菌PD653株を単離することに成功してい ます。そこで、単離した菌株を同定し、HCBを好気的に脱塩素分解・無機化出来るか検討しました。さらに、その主要代謝経路を明らかにしました。
[成果の内容]
 PCNBを好気的に脱塩素分解する細菌PD653株を発見しました。本菌は16S rRNA遺伝子の塩基配列を基づく系統樹の位置からグラム陽性のNocardioides属に属する新種であることが明らかになりました(図1)。14Cで標識したHCBを唯一の炭素源とした無機塩培地を用いてPD653株を培養するとHCB濃度が減少し、14CO2が生成しました(図2左)。また、PD653株はHCBを唯一の炭素源とした培地中で増殖し、Cl-濃度の増加が確認されました(図2右)。 これらの結果から、PD653株はHCBを好気的に脱塩素分解し、無機化することが明らかになりました。PD653株を用いてHCBの好気的代謝試験を 行ったところ、HCBは速やかに脱塩素化され、初発代謝物としてPCPが産生され、さらに、代謝物としてTetracholohydroquinone (TeCH)、2,6-Dicholohydroquinone(DiCH)が検出されました(図3)。
 このように、Nocardioides sp.PD653株は、HCBを好気的に分解・無機化できる細菌として世界で始めて単離・同定された菌株(野生株)であり、HCB汚染土壌のバイオレメディエーションへの適用に大変有望な菌株として期待されています。
本研究は、農林水産省の委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:有機化学物質リサーチプロジェクト
研究担当者:有機化学物質研究領域 高木和広、亀井一郎(現:福岡大)、岩崎昭夫(興和総研)、吉岡祐一(東洋電化工業)、薩摩孝次(残留農薬研究所)
発表論文等: 1) 高木、吉岡、特許第3030370 号(2000)
2) 高木、吉岡、特許第3773449 号(2006)
3) 高木ら、特願2005-189986 号(2005)
4) Takagi et al., Appl. Environ. Microbiol., 75(13), (2009)

図表

図表

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