農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成20年度 (第25集)

主要研究成果 4

安定同位体を用いて植物に吸収されうるカドミウムの最大量を評価する

[要約]
土壌中のカドミウムのうち、最大でどのくらいのカドミウムが植物に吸収されうるかをカドミウム安定同位体法で求めました。カドミウム濃度の低い土壌においても、およそ半分のカドミウムは植物に吸収されうる形態で存在していることがわかりました。
[背景と目的]
土壌中のカドミウムは、土壌に含まれている水(土壌溶液)に溶けた形で移動します。土壌中カドミウムの作物に対する吸収リスク、あるいは水系への溶脱リスクを評価するには、土壌中に存在するカドミウムのうち、土壌溶液に溶解しうるカドミウムがどのくらい存在するかを知る必要があります。そこで、カドミウム安定同位体を土壌に加えて、土壌溶液中のカドミウム同位体比の変化から、土壌溶液に溶解できる形態のカドミウム量を求めました。
[成果の内容]
 土壌中のカドミウムは、①土壌溶液に溶解している、②土壌の粒子と結合しているが条件により土壌溶液に溶解する、③土壌の粒子と強く結合し土壌溶液に溶けない、の3つに大別できます(図1)。植物は土壌溶液に溶解しているカドミウムを吸収するので、①と②のカドミウムの合計量が植物に吸収されうるカドミウムの最大量と考えられます。
土壌中の①と②のカドミウムはお互いに往き来でき、平衡状態にあります。土壌にカドミウム安定同位体(111Cd)溶液を加えると、土壌溶液中の111Cdの比率が高くなりますが、時間が経過すると①と②の間のカドミウムの往来により、土壌溶液中の111Cdの比率が徐々に低くなり、やがて一定になります(図2)。このときの111Cdの比率は、土壌に加えた111Cd量と①と②に存在していたカドミウム量により決まります。したがって、111Cdの比率から、①と②のカドミウムの合計量(以下E値という)を求めることができます。
 土壌のE値は土壌中の全カドミウムの4~6割に相当しました。また、微量のカドミウムを含む有機質の資材を5年間連用してもE値はほとんど変化しませんでした(表1)。
 E値は土壌溶液に溶解しうるカドミウムの最大量であり、潜在的なカドミウムリスク、たとえば有機質資材の連用が土壌のカドミウムのリスクに及ぼす影響を評価する手法として活用できます。
本研究は、農林水産省の委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:重金属リスク評価リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 川崎晃、箭田(蕪木)佐衣子
発表論文等: 1) Kawasaki and Yada, J. Nucl. Sci. Technol., Supple. 5: 138-142 (2008)
              2) Yada and Kawasaki, J. Nucl. Sci. Technol., Supple. 5: 143-145 (2008)

図表

図表

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