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主要研究成果 8

ミトコンドリア遺伝子の部分配列による土着天敵ヤマトクサカゲロウと外来近縁種との識別法

[要約]
土着天敵ヤマトクサカゲロウと海外から輸入されている近縁種とをミトコンドリア遺伝子の部分配列を利用して、容易に識別する手法を開発しました。
[背景と目的]
化学農薬の使用を軽減し、環境に優しい農業を実現する手法のひとつとして、天敵の害虫防除への利用があります。しかし、近年は、海外で開発された有能な天敵を利用する場面も多くなる一方で、これらが標的害虫以外の昆虫を捕食するなどして、農業生態系における食物連鎖のバランスを崩す、といったリスクを懸念する声もあります。現在、土着天敵ヤマトクサカゲロウChrysoperla nipponensisに近縁な外来種(C. carnea)が輸入・利用されていますが、両者は、外見上の区別が困難です。そこで、この外来種が今後、定着して農業生態系に影響を与えるか否かをモニタリングするために、ミトコンドリア遺伝子の部分配列を利用して、土着種と識別する手法を開発しました。
[成果の内容]
 土着天敵ヤマトクサカゲロウと海外から輸入されている近縁外来種のミトコンドリア遺伝子の部分配列(COI)を決定して、比較したところ、土着種と外来種それぞれに特徴的な配列が見つかりました。これらの配列の中に制限酵素で切断可能な配列があり、これを利用すると両種を1頭単位で識別可能であることが分かりました。
 識別法は、虫体からDNAを抽出し、1対のプライマー(PF, PR)で、ミトコンドリア遺伝子の部分配列(1018bp)を増幅した後、これをHpyCH4 Vという制限酵素で処理して、アガロースゲル電気泳動で分離するという方法です(図1)。
 この制限酵素で切断した際、270bp未満のバンドが認められる場合は、在来種であり、270bp未満のバンドが認められない場合は、外来種であると判定できました(図2)。
 このように、ミトコンドリア遺伝子の部分配列をPCR法で増幅して、制限酵素で切断することにより、外来種(C. carnea)と土着種ヤマトクサカゲロウを容易に識別することができます。この方法は、本外来天敵の野外分布状況と農業環境への影響の有無をモニタリングするために利用でき、リスク評価及び管理に大きく貢献します。
リサーチプロジェクト名:外来生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 望月 淳、野村昌史(千葉大学)
発表論文等: 1) Haruyama et al., Ann. Entomol. Soc. Am. 101: 971-977(2008)

図表

図表

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