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主要研究成果 9

ため池の多様なトンボ類を守るためには、池の環境だけではなく、池の配置も重要です

[要約]
トンボ類にとってのため池の配置の重要性を、池内の環境、池周辺の土地利用の影響と比較して、評価しました。個々のトンボ種に注目すると、飛翔力のあまり強くない種では、ため池の配置が最も重要であること、さらにトンボ類全体を対象とすると、ため池の配置は、他の影響と等しく重要であることがわかりました。
[背景と目的]
最近の研究では、農業環境の変化にともなって、多くの昆虫種は、好適な生息地を失うだけでなく、生息地ネットワーク構造の劣化により、個体数を維持できなくなっていると示唆されています。本研究では、トンボ類における、ため池の配置の重要性を調べました。
[成果の内容]
 トンボ類は、古くから日本の農村に生息する生物として親しまれ、農村生物多様性を計るための重要な指標生物です。茨城県南部、恋瀬川流域の農業用ため池70地点で観察したトンボ類個体数データ(田中らの2005年調査)を使って、ため池の配置の重要性を定量的に評価しました。
 まず、代表的なトンボ3種について、それぞれの個体数に対する、池内の環境(面積、底堆積物、水質など)、周辺の土地利用(GISバッファ解析により抽出)、池の配置(池間の近接距離行列をもとに定量化)の3つの要因の相対的な影響度を、重回帰分析によって調べました(図1)。飛翔力があまり強くないモノサシトンボとシオカラトンボでは、池の配置の影響が大きいことがわかりました。また、この2種のうち、環境選好性の強いモノサシトンボの方が、池内の環境、周辺の土地利用とも、相対的に大きく影響していました。一方、飛翔力が強いウチワヤンマでは、池の配置の影響はほとんどありませんでした。次に、トンボ類全体に対する影響を評価するため、トンボ類の多様性に対する上記3要因の影響を、多変量解析手法を使って比較したところ、それぞれ同じ程度、重要であることがわかりました(図2)。
 以上から、多様なトンボ類の保全には、池内や周辺の環境が異なる様々なため池が、トンボ類の移動可能な範囲内にまとまって配置されていること、すなわち池の配置が重要性であると、定量的に示されました。
本研究の一部は農林水産省の委託プロジェクト研究「流域圏における水循環・農林水産生態系の自然共生型管理技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:水田生物多様性リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 山中武彦、濱崎健児、田中幸一、生態系計測研究領域 岩崎亘典、David S. Sprague、農業環境インベントリーセンター 中谷至伸
発表論文等:1) 田中ら. 農環研ニュース、76: 5-6 (2007)
       2) Yamanaka et al. Oikos 118: 67-76 (2009)

図表

図表

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