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主要研究成果 10

2007年夏季異常高温下での水稲不稔率の増加を確認

[要約]
2007年8月に関東・東海地域で発生した異常高温により、この期間に出穂・開花した水稲において、通常より高い割合で不稔が発 生したことを確認しました。ただし、その割合は室内実験での温度反応から推定されるより低く、また出穂・開花の時期に高温に遭遇した水稲が少なかったこと もあり、作況に影響するような大きな被害には至らなかったことがわかりました。
[背景と目的]
2007年8月には、熊谷、多治見で観測史上最高の40.9℃を記録するなど、広い範囲で異常高温に見舞われました。これまで多 くの室内実験から、水稲の開花時の気温が35℃を超えると、受精障害により不稔籾(もみ)が多発することが知られています。2007年夏に記録された異常 高温は、これまで顕在化していなかった高温不稔を誘発しうる温度域であり、被害発生が懸念されました。そこで、記録的な猛暑を観測した関東・東海地域にお いて不稔発生の現地調査を行い、実態の解明を試みました。
[成果の内容]
 群馬県、埼玉県、茨城県、岐阜県、愛知県において、7月下旬から8月下旬までに出穂した132の水田を対象に不稔籾の発生を調 査しました。調査水田近隣の気象官署、AMeDAS観測地点の気象データと照合したところ、関東、東海の両地域で出穂・開花時期の最高気温が35℃を越え た水田があり、通常は約5%程度の不稔率が10%を越えた水田が認められました(図1)。 農環研内の実験水田においても、最高気温の高い時期に出穂した区画では、20%を超える不稔が記録されるなど、不稔籾の割合は出穂・開花時期の気温ととも に高まることがわかり(図2)、平年より高い割合で不稔 が発生したことが確認されました。
 ただし、調査対象田における不稔発生率は、これまでの室内実験結果から予測される値よりも低い傾向にありました。農環研で開発した穂温推定モデルによる と、気温と推定穂温の分布は必ずしも一致しませんでした(図3)。 これは、穂の温度には気温だけでなく日射、風速、湿度といった気象要素も関連するからです。水稲の開花時間帯(午前10〜12時頃)の穂温は、記録された 最高気温よりも低かったと推定されること(図3)、また 地域全体では出穂・開花の時期に高温に遭遇した水稲が少なかったことなどから、作況に影響するような大きな被害は認められませんでした。以上の結果は、今 後予想される地球温暖化の進行が水稲に及ぼす影響を予測・検証する上で重要な基礎資料となります。
本研究は(独)農業環境技術研究所、(独)農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所及 び中央農業総合研究センターによる協定研究「2007年夏季異常高温が水稲生産に及ぼした影響に関する緊急調査研究」による成果です。
リサーチプロジェクト名:作物生産変動要因リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 長谷川利拡、吉本真由美、桑形恒男、石郷岡康史、(独)農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所 近藤始彦、石丸 努
発表論文等:1)プレスリリース 2008年3月28日
         2) 長谷川ら、米麦改良、9:10-13 (2008)
         3) 長谷川ら、農業及園芸、84: 42-45(2009)

図表

図表

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