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主要研究成果 12

東南アジアにおけるバイオ燃料増産による環境への窒素負荷の評価

[要約]
東南アジアにおいて、穀物単収の増大により得られる余剰農地にサトウキビなどを生産すると、2030年に3千万KL程度のバイオ燃料を生産するこ とが可能です。しかしこのために投入する窒素肥料により、環境への窒素負荷は食料のみを生産する場合の1.3-1.5倍に増えると予測されます。
[背景と目的]
温暖化対策の一つとしてバイオ燃料が注目されていますが、一方で食料生産との競合が問題になっています。また、バイオ燃料用作物の生産は、生態系 の破壊や環境汚染の原因となることも懸念されています。ここでは、現在の農地において、必要な食料の生産に加えて、どの程度の量のバイオ燃料用作物の生産 が可能であるか、そのとき、環境への窒素負荷はどう変化するのかを明らかにすることを目的としました。
[成果の内容]
 穀物の大量生産国であり、生産余力の期待できる東南アジア4カ国(インドネシア、ミャンマー、タイ、ベトナム)を対象としました。これらの4カ国の現在の穀物消費量は1.7億t、ほぼ同量を地域内で生産しています。単収は3.9t/haです。
 図1に 示した手順で2030年までの、飼料も含んだ穀物必要量と穀物生産可能量を見積もり、これらから余剰農地面積を求めました。2030年の穀物需要は現在の 1.2〜1.6倍となりますが、単収の増加(最大6.7t/haと予測)によって約27%の穀物栽培農地でバイオ燃料用作物の生産が可能であると見積もら れました。
 シナリオにより大きな違いがありますが、1)3千万kL程度のバイオ燃料の生産が可能であること、2)インドネシア、ミャンマー、タイでの生産量が大きいこと、3)アブラヤシが最も生産性が高いことがわかります(図2、表1)。
 窒素循環モデルにより推定した環境への窒素負荷(農地からの流出、家畜糞尿、人からの排出を含む)は、2005年には309万tNでしたが、食料生産の みでも2030年には520万tN程度に増加します。バイオ燃料用作物を生産すると、穀物単収の増加のためとバイオ燃料用作物栽培のために窒素肥料必要量 が増大するため、あわせて約680−800万tNの負荷、食料生産のみの場合の1.3−1.5倍となると予測されました(図3)。このような推定により、バイオ燃料生産の効用と負の影響を定量的に示すことが可能となります。
本研究の一部は環境省地球環境研究総合推進費のプロジェクト研究「酸性物質の負荷が東アジア集水域の生態系に与える影響の総合的評価に関する研究」による成果です。
リサーチプロジェクト名:炭素・窒素収支広域評価リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 新藤純子、生態系計測研究領域 岡本勝男
発表論文等:1) Shindo et al., Ecological modeling, 193, 703-720 (2006)

図表

図表

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