農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成20年度 (第25集)

はじめに

 サブプライムローンに端を発した金融危機に陥る直前までの最近数年間における穀物価格の高騰は、私たちに改めて世界の食料事情について考える機会を与えました。その高騰は、異常気象による不作に加え、世界人口の増加、新興国の経済発展による需要の拡大、バイオエネルギー生産のための需要の増大、さらには、穀物市場への投機的資金の参入もあり、とうもろこし、小麦の国際価格は2005年から2008年夏までに、3倍、コメにいたっては5倍にも値上がりしたというものでした。しかし、金融危機による世界経済の不況にも関わらず、今なお、穀物価格は高い水準にあります。
 緑の革命は人口の増加に対応して食料生産の増大を可能とさせましたが、今世紀半ばまでに世界の人口が90億人に達すると予測されているなかで、再び緑の革命が希求されています。
 緑の革命は、穀物の世界の平均収量を大きく増加させましたが、しかし他方では、化学肥料や農薬などの過剰投入によるものともいわれていますが、土壌劣化、地下水汚染など環境問題を誘発し、ついには収穫量の減少を導いているという事例も報告されています。第2の緑の革命にとっては、「食料」と「環境」を両立させる持続的な農業を探究しなければなりません。
 環境研究には「問題があること」を発見する研究と「問題がないこと」を示していく研究の2つがあるといわれています。前者では現象を解明し、影響を評価し、必要な対策を導き出しますが、後者では現象の解明と影響の評価が重要となります。農業環境研究は、これらに加えて、農業環境資源を収集し分類し評価し、インベントリーを作成し、情報化し、総合化を行う研究もあります。
 この研究成果情報平成20年度版は、目次を一瞥してお気づきのように、「普及に移しうる成果」と「主要研究成果」とに分けて研究成果を掲載しています。「普及に移しうる成果」は、平成20年度に上げられた農業環境研究の成果の中から主要なものを選定した「主要研究成果」の中で、国、県あるいは市町村行政部局、検査機関、民間、他独法や大学など試験研究機関、さらには農業現場などで活用されることが期待され、研究所としても積極的に広報および普及活動を行なうべき重要な成果であると位置づけられた成果です。昨年度版で紹介した「普及に移しうる成果」の中の「環境への負荷がより小さい低濃度エタノールを用いた低コストの新規土壌消毒法」が平成19年度農林水産研究10大トピックスに採択されていますが、平成20年度10大トピックスにおいても本成果情報で紹介する「植物の葉から採れたカビが生分解性プラスチックを強力に分解」が採択されています。こうした成果のみならず、ここに掲載されている成果のなかには新聞などマスコミに大きく取り上げられたものもあります。本書に採録されている研究成果が、「知識の創造」に寄与することはもとより数々の局面において役に立つものと確信しています。
本書が、皆様にとって有意義な情報になることを願うとともに、皆様からの忌憚のないご意見を得て、私たちの研究が更に深化する契機となることを期待しています。

 平成21年3月

独立行政法人 農業環境技術研究所
理事長 佐藤 洋平

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