農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成21年度 (第26集)

普及に移しうる成果 2

カドミウム高吸収イネ品種によるカドミウム汚染水田の浄化技術(ファイトレメディエーション)

[要約]
カドミウム高吸収イネを「早期落水法」で2〜3作栽培することにより、土壌のカドミウム濃度を20〜40%、玄米のカドミウム濃度を40〜50%低減することに成功しました。また、「もみ・わら分別収穫法・現地乾燥法」による低コスト処理方法を開発しました。
[背景と目的]
食品を通じた国民のカドミウム摂取量を低減するため、コメに含まれるカドミウム濃度の国内基準値(1.0mg/kg 未満)を0.4 mg/kg以下に改正することが検討されています。従来の主要な土壌浄化対策技術である客土は、コストが高く、かつ大量の非汚染土壌を必要とすることから、大面積での実施は困難です。そのため、安価で広範囲に適用できる土壌浄化技術の開発を行いました。
[成果の内容]
土壌のカドミウム濃度が高い水田において、カドミウム高吸収イネ品種(モーれつ、IR8長香穀)を、カドミウム吸収を高める「早期落水法(移植後最高分げつ期まで湛水、以後収穫時まで落水)」で2〜3作栽培し、その都度地上部を水田の外へ持ち出しすることにより、土壌のカドミウム濃度が20〜40%低減しました。その後に栽培した食用イネの玄米のカドミウム濃度は、対照区と比べて40〜50%低減しました。
また、イネ地上部のうち、最初にもみだけを収穫し、その後天日乾燥した稲わらをロール状にまるめて収穫する「もみ・わら分別収穫法」とロールの上部を透湿防水シートでおおって水田に数か月置く「現場乾燥法」を併用することにより、カドミウムを含む収穫物の処理費用を抑制することができました。
本浄化技術は、農業用水の必要量が少なく、既存の農業機械で対応できるため、低コストで広範囲での実施が可能です。現在、気象条件や汚染程度の異なるさまざまな水田を対象に、農水省による実証事業(汎用化の検証)が行われています。今後、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づき、カドミウム汚染水田で実施される土壌浄化対策技術の一つとして活用されることが期待されます。
本研究は農水省委託プロジェクト「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:重金属リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 村上政治、荒尾知人、阿江教治(現:神戸大学)、中川文彦(山形県農業総合研究センター)、本間利光(新潟県農業総合研究所)、茨木俊行(福岡県農業総合試験場)、伊藤正志(秋田県農林水産技術センター)、谷口 彰(三菱化学株式会社)
発表論文等:1) Murakami, et al., Environetal. Science and Technology. 2009, 43, 5878–5883.
2) Ibaraki, et al., Soil Science and Plant Nutrition. 2009, 55, 421–427.
3) 本間ら、日本土壌肥料学会誌、80: 116-122 (2009)

図表

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