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主要成果 5

玄米カドミウム濃度を制御する新規の遺伝子座の同定

[要約]
玄米のカドミウム集積に関わる遺伝子座(QTL)を、第7染色体の短腕側に同定しました。このQTLは銅、鉄、マンガン、亜鉛の必須重金属の玄米集積には関与せず、カドミウム濃度のみを特異的に高めることがわかりました。
[背景と目的]
玄米のカドミウム(Cd)濃度は品種間で大きく異なりますが、その差異を支配する遺伝子の存在は未だ明らかではありません。Cdは重金属であるため、亜鉛や鉄等のミネラル重金属と共通の遺伝子によって玄米まで輸送されている可能性があります。そこで本研究では、水稲の玄米Cd濃度に関与する遺伝子座を特定するとともに、他の必須重金属との遺伝的な関連性の有無も調査しました。
[成果の内容]
玄米Cd濃度の低いジャポニカ品種「ササニシキ」と高いインディカ品種「ハバタキ」を交配した子孫たち(厳密には戻し交雑自殖系統群で85の系統数)をCd汚染圃場で栽培したところ、玄米Cd濃度は連続的な頻度分布を示すことがわかりました(図1左)。このようなパターンの場合、玄米Cd濃度は複数遺伝子の効果の組み合わせによって決まるものと考えられます。それら遺伝子が存在する染色体の座位(QTLと略す)を特定するには、染色体全体に分布する多数のDNAマーカー(ゲノム上の目印)を用いたQTL解析という統計遺伝学的手法が有効です。この手法により、第2と第7染色体上に「ハバタキ」の遺伝子型で玄米Cd濃度を高めるQTLを見つけました(図1右)。特に第7染色体上のQTLは大きな遺伝効果があると予想されるため、以後このQTLに焦点を絞りました。
第7染色体に存在するQTLの位置を確認するために、「ササニシキ」の第7染色体のみに「ハバタキ」の染色体断片を移入した3つの系統(SL422,423,424)の玄米Cd濃度を測定しました(図2、Cd汚染土壌での栽培)。その結果SL422系統のみで高く、図1に示したQTLのピーク位置と対応させると、目的とするQTLはマーカーRM7273近傍にあることが推定されました(図2)。さらにSL422の玄米重金属濃度は、Cd以外「ササニシキ」とほぼ同じであることから(図2中の表)、玄米のCdのみを特異的に高める新規のQTL(qGCd7と命名)であることがわかりました。
qGCd7の遺伝子単離に向けて、現在までにマーカーRM21251-RM21327間の約1.65MbまでQTL領域を絞り込むことに成功しています(図3)。
今後qGCd7の遺伝子単離により、玄米Cd濃度の遺伝的制御機構の解明が期待されます。
本研究は農林水産省の委託プロジェクト研究「新農業展開ゲノムプロジェクト」による成果です。
リサーチプロジェクト名:重金属リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 石川覚、安部匡、倉俣正人、山口誠之((独)農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター)、安藤露((社)農林水産先端研)、山本敏央((独)農業生物資源研究所)、矢野昌裕((独)農業生物資源研究所)
発表論文等:Ishikawa et al., J. Exp. Bot., 61:923-934 (2010)

図表1

図表2

図表3

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