農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成21年度 (第26集)

主要成果 18

作物からの分光反射率画像を長期間自動的に記録し生育状態を追跡するシステム

[要約]
水田や畑の農作物の画像を栽培期間中、天候にかかわらず常に撮影し記録する装置を開発しました。通常のカラー写真とは異なり、特定の波長ごとの反射率(分光反射率)画像を観測しますので、作物の生育量や栄養状態の推定や、衛星画像データの効率的な解析などに役立ちます。
[背景と目的]
広い地域の作物分布や収量・品質と自然的・社会的環境との関係を精度よく調査するために、人工衛星によるリモートセンシングデータを活用した農業環境情報の解析が注目されていますが、一方でそのような技術開発を支援する地上側の情報が必要です。上空からの観測値を補正するため、衛星の飛来のたびに計測器を持ち出して田畑の反射特性を測定することがあります。また作物の種類の判別などの精度向上のために、一部の検証用エリアで農作物の生育実況を把握する調査は労力を要し、技術開発上のネックのひとつです。そこで、天候や測定日時の違いなどによる不確実性を避けながら、地上情報を効率よく収集する廉価で堅牢な定点自動観測システムが求められています。
[成果の内容]
  1. この装置(図1)は、完全防水型ですので、目標の圃場の上空数m〜数十mの位置に常に架設して使います。たとえばいくつかの農作物の試験区の画像(1280×1024画素、短辺視野48°)をまとめて全作期通して天候にかかわらず一定の視点から撮影し保存することができます。
  2. 撮影時の照明条件によって変化してしまう明るさ情報ではなく、作物の実況に応じた一定の情報を含むと考えられる波長別の反射率(分光反射率)に自動的に換算する機能があります。すなわち観測する波長バンドで撮影時の明るさをモニタし、あらかじめ作成しておいた較正式をあてはめることにより、撮影した明るさ画像を正確に反射率画像に変換します(図2)。
  3. 目的に応じて波長フィルタを交換して使用することが容易な仕組みになっています。そのようなフィルタの交換や長期的な特性変動に対応するため、使用者が簡易に再較正できる補助機能があります。また、観測時刻や反射率画像の波長間演算法などの設定や、レンズやフィルタなどの特性による画像内の位置による明るさの違いの補正ができます。定点で複数の対象を比較観測することにより、計測の経時的連続性に基づく精度と確度の向上が期待できます(図3)。
  4. 本装置の利用例として、バイオマスや葉面積に感度をもつ近赤外バンドに着目し、地上12mから斜め撮影した水田反射率の日平均値と、撮影方向や植え付け方向などを変数に加えた回帰式を作成すると、出穂期までのイネの葉面積を省力的に精度よく推定できました(図4)。

本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金基盤(c)の研究課題「特殊観測技術による作物の収量構成要素・ 葉群構造推定のための新規光学的指標の構築」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業空間情報リサーチプロジェクト
研究担当者:生態系計測研究領域 芝山道郎、坂本利弘、高田英治(富山高等専門学校)、木村昭彦((有) 木村応用工芸)、守田和弘(富山県農林水産総合技術センター)、山口琢也(同左)、高橋渉(富山県庁)
発表論文等:1) Shibayama et al. Plant Prod. Sci., 12(3): 293-306 (2009) 2) 高田ら、システム農学、25(1): 27-34 (2009)


図表1、2

図表3

図表4

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