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主要成果 19

農耕地での窒素・リン酸収支を都道府県単位で算出したデータベース

[要約]
1985年から2005年の5年ごとに、肥培管理に関する調査結果などから、都道府県における作目別窒素・リン酸収支を算出してデータベースを作成し、解析を行いました。日本全体では収支は逓減していました。このデータベースは一酸化二窒素発生量推計や水質への影響評価に利用できます。
[背景と目的]
農地土壌表面収支法によって求めた日本の窒素、リン酸の収支はOECD加盟国中それぞれ、4番目、1番目に多いことから、農業カテゴリ、地域的なばらつき、経年的な変化を明らかにし、収支を改善する必要があります。そこで、肥培管理に関する調査結果と肥料生産量、作物栽培・家畜飼養に関する農業統計などから、都道府県別に作目ごとの窒素・リン酸収支の経年変化を算定してデータベースを構築し、これを用いて、収支を左右する主な要因と作目を明らかにしました。
[成果の内容]
  • 1. 窒素・リン酸収支算定のために開発した枠組み(発表論文1)を利用し、1985年から2005年までの5年ごと、都道府県別に6作目5畜種について窒素・リン酸フローをまとめ、表計算ソフト(Microsoft Excel)上に登録しました(図1)。
  • 2. このデータベースから得られた値を様々な視点で解析することにより、以下のことが明らかになりました。
    • (1) 都道府県別の耕地面積当たりの窒素・リン酸収支は、化学肥料の投入量の減少に伴い、減少傾向にありました。農業生産で余剰となる窒素・リン酸は全国的には減少傾向であるが、集約的畜産地帯で未利用の家畜糞尿が増加傾向にありました(図23)。
    • (2) 作目別に見た窒素収支はばらつきが大きいものの、全国平均でみると水稲や畑作物、果樹、茶では最近、減少傾向にあることが認められました。一方、野菜では余剰の窒素が増加傾向にあり、その原因は主に化学肥料の投入量の増加でした。飼料作物では窒素収支がマイナスになる場合があり窒素投入の不足が推察されました(図4)。
  • 3. 本データベースは、窒素・リン酸の収支改善方策の策定ばかりでなく、都道府県別の一酸化二窒素の発生量の推定、地下水や河川・湖沼の水質影響評価などに利用することができます。
  • 4. 農環研報告(2010年刊行予定)に本データベースの算出方法を記載しています。本データベースの配布は農環研Webサイトで行います。

リサーチプロジェクト名:農業環境情報・指標リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 三島慎一郎、農業環境インベントリーセンター 神山和則
発表論文等:1) Mishima et al., Nutrient Cycling in Agroecosystems 83: 1-11(2009)
2) Mishima et al., Nutrient Cycling in Agroecosystems 86: 69-77(2010)


図表1

図表2

図表3

図表4

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