農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 8

特定外来生物ナガエツルノゲイトウは水田に侵入し拡散する

[要約]
特定外来生物ナガエツルノゲイトウが、水田域で、前年分布範囲や用水路網の影響を受けながら分布を拡大していること、田面だけでなく畦畔でも蔓延していることを解明しました。用水路などを通じた侵入の防止と、畦畔を含む水田域全体での防除が必要です。
[背景と目的]
特定外来生物ナガエツルノゲイトウは、南米原産の多年生草本植物で、生育可能な範囲が水域から陸域まで広く、世界各地に侵入・定着している極めて侵略的な植物です。現在の日本国内での分布は一部の湖沼や河川に限られ、農地への侵入はごくわずかですが、水田周辺では特に蔓延リスクが高いとされます(研究成果情報 第24集)。そこで、千葉県印旛沼周辺の水田を対象に3年間にわたる現地調査を行い、本種の水田域における侵入、拡散の実態を解明しました。
[成果の内容]
千葉県印旛沼に流入する師戸川の流域を対象に、8調査区を設け、ナガエツルノゲイトウの分布度(地表を被う程度)を5段階にランク分けし、調査区内の全水田ほ場(1,123筆)を一筆ごとに、2008年から2010年の3年間、毎年10〜11月に踏査しました(図1)。また、本種は植物体破片からでも増殖し、水流で拡散し、乾燥に耐えることから、各水田ほ場と農業水路や農道などの侵入経路となりうる要素を踏査し、GIS(地理情報システム)上でほ場間およびほ場と侵入経路との距離を算出しました。
その結果、ナガエツルノゲイトウは過去3年間、毎年、分布域(分布するほ場割合)と分布度(高ランクのほ場割合)がともに増大していました(図2)。また、田面よりも畦畔など周囲の方が分布度が高い場所が多く、田面で防除しても、周囲から田面に再侵入しうることが予想されました(図3)。各水田ほ場における2009年のナガエツルノゲイトウの有無に影響を及ぼす要因を統計的に解析した結果、前年(2008年)に分布したほ場や用水路からの距離が小さいほど分布確率が高いことがわかりました(図4)。ただし、本種は乾燥に耐えるため、農業機械への付着など水路経由以外の要因での分布拡大も懸念されます。
本種は一旦水田に侵入すると蔓延してしまいます(図5)。このため、植物体の破片が用水に混入したり農業機械に付着して水田域に侵入することを未然に防ぐことが重要です。また、侵入してしまった場合には、早い段階で田面と畦畔の両方で防除が必要です。
この結果は、ナガエツルノゲイトウが水田や農業水路に侵入、蔓延して農業生産や周囲の生態系に影響を及ぼすことを未然に防止するための重要な知見となります。

リサーチプロジェクト名:外来生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 山本勝利、楠本良延
発表論文等:1) 山本、楠本、2009年度農村計画学会春期大会要旨集、53-54 (2009)


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