農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 9

ダイズ花粉の空中飛散量は少なく風による飛散距離も短い

[要約]
野外圃場におけるダイズ花粉の空中飛散量は風媒性の作物より極めて少なく、また花粉の飛散距離が花粉サイズから推測された値よりも短かったことから、ダイズの花粉は極めて飛散しにくいことが明らかになりました。
[背景と目的]
現在、日本では遺伝子組換えダイズは栽培されていませんが、今後組換えでないダイズを作る農家との共存を実現するためのルールづくりが必要です。ダイズは自殖性の作物であり、0.7m程度離して栽培した場合でも他殖率は0.5%以下です。他殖は、虫媒によるものと考えられていますが、詳細は不明であり、風媒による可能性も否定できません。そこで本研究では、圃場および風洞施設においてダイズ花粉の飛散距離を調査し、風媒による他殖の可能性について検討しました。
[成果の内容]
ダイズの花粉飛散の実態を把握するため、野外ダイズ圃場の内外23か所にダーラム型花粉採集器を配置し(図1)、19日間にわたって落下花粉数を調査しました。圃場のダイズは約5400個体、1個体1日当たり最大40個開花していましたが、花粉採集器のプレパラート(3.24cm2)1枚当たりの全調査期間補足花粉数は、圃場内1.25粒、圃場から2.5m地点で2.25粒、10mおよび20m地点で0.25粒でした(表1)。1日でプレパラート1枚当たり1000個以上の花粉が捕捉される風媒性のイネやトウモロコシに比べ極めて少ないことがわかりました。次に、長さ約20mの風洞施設(図2)を用いた花粉飛散実験において、風上に開花植物、風下にワセリンを塗布したプレパラートを配置し、風速2.0m/sで15分間空気を送風した後、プレパラートに付着した花粉の分布密度を測定したところ、イネでは風下0.2mで0.63個/cm2、2.5mで0.27個/cm2、15mで0.07個/cm2であったのに対し、ダイズでは最も密度が高い風下2.5mでも0.08個/cm2であり、15m以上では全く花粉は認められませんでした(図3)。この値は、花粉サイズ(直径)から推定される飛散距離より短く(図3)、その原因はダイズの花粉が粘着性を持ち、数個の固まりの状態で飛散するためと考えられました。このように空中飛散量が少ないことに加え、花粉の受け側となるめしべが、ダイズでは花弁の外に露出しないことを考慮すると、ダイズが風媒により受粉する可能性はほとんどないと考えられます。以上の結果は、今後遺伝子組換えダイズを栽培する際の非組換えダイズとの交雑防止手段の開発に寄与するものと考えられます。

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」による成果です。
リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 吉村泰幸
発表論文等:Yoshimura Y. Journal of Plant Research 124: 109-114 (2011)


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