農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果10

道路沿いのセイヨウナタネは草刈りなどの攪乱が多い環境に生育しやすい

[要約]
搬送中にこぼれ落ちた種子に由来するセイヨウナタネは、道路の縁石沿いに一時的に溜まった土砂の上や草刈りが定期的に行われる中央分離帯など、攪乱の多い限られた場所に生育しやすいことが明らかになりました。
[背景と目的]
搬送中にこぼれ落ちた種子に由来する除草剤耐性遺伝子組換えセイヨウナタネ(以下、GMナタネ)が野生化し、今後、広がってゆくのかどうかが懸念されています。この研究では、GMナタネの宿主情報として、こぼれ落ち種子に由来するセイヨウナタネ(以下、ナタネ)個体群の動向を知るために、道路沿いに見られるナタネはどんな環境に生育しているか、道路管理のために行われる草刈りは個体群の発生消長にどのような影響を及ぼすかを明らかにしました。
[成果の内容]
油糧用ナタネの陸揚げ港である茨城県鹿島港の幹線道路沿いのナタネの生育が多く観察された2地点(A、B)において、条件の異なる環境ごと(歩道上、縁石沿い、中央分離帯、植栽帯、雑草群落など)に調査用帯状区を設け(図1)、平成18年7月〜21年3月まで、ナタネ個体数の変動と群落の繁茂状況(群落高×植被率)および草刈りの有無について調査を行いました。その結果、港から車輌が出て行く方向の道路の縁石沿い(A地点:帯状区7と9、B地点:帯状区5、図2)の土砂が溜まった場所に、両地区とも共通してナタネが多く生育していました。また、港に向かう方向の道路にもわずかにナタネが見つかりました。両方向の道路とも、隣接する周辺の空き地や雑草群落中にはナタネは全く見ることが出来ませんでした(A地点:帯状区1と21、B地点:帯状区15と16、図2)。B地点の中央分離帯(帯状区8)では道路管理のために夏から秋にかけて定期的に草刈りが行われましたが、草刈り後一時的にナタネ個体数が増加する傾向が観察されました(図3)。しかし、それを除くと雑草群落の繁茂の程度が高いほどナタネ個体数が少ない傾向が見られました(図4)。この現象は、ナタネの発生には繁茂した群落を刈り払いにより一掃することが必要であり、繁茂した群落中ではナタネは優勢になれないことを示すものです。このように、搬送途中にこぼれ落ちたナタネの多くは、縁石沿いや草刈りが行われる中央分離帯など道路特有の物理的な攪乱の多い場所に生育しますが、周辺群落へ侵入し拡がってゆく傾向はないことが判明しました。以上の結果は、遺伝子組換えナタネの生物多様性影響を評価する際の宿主情報として活用されます。

本研究は農林水産省委託研究費「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」による成果です。
リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 松尾和人、水口亜樹、吉村泰幸 生態系計測研究領域 大東健太郎
発表論文等:Mizuguti et al., JARQ 45(2):181-185 (2011)


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