農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 15

日本原産のシランのアレロパシーとその原因物質の同定

[要約]
日本原産のランであるシランは強い雑草抑制作用を示します。その原因物質としてミリタリンを同定しました。シランは強い雑草抑制効果をもつ多年生被覆植物として、畦畔や庭園の雑草管理に利用できます。
[背景と目的]
シラン(Bletilla striata)は日本・台湾・中国原産の地生ランであり、栽培が容易なので鑑賞用に広く栽培されています。生育が遅い多年草ですが、繁茂すると純群落を形成し、周辺の雑草の生育を抑え見栄えがよいことから、園芸種として好まれています。本種は、他の植物の生育を抑制する化学物質を含んでいると推測されたことから、その物質を明らかにしました。
[成果の内容]
シランの植物体地上部の植物生育阻害は強く、レタスに対する50%生育阻害濃度(EC50)で比較すると、これまで調査した200種の植物中第5位の活性がありました(図1)。
シランに含まれる植物生育阻害活性を指標に原因物質を単離し、その化学構造を解析した結果、作用活性成分としてミリタリン(militarin)を同定しました(図2)。この物質は、すでにOrchis militaris(ハクサンチドリの類)やCoeloglossum viride(アオチドリの類)等のランから薬用成分として報告されていますが、植物生育阻害活性を報告するのはこれが初めてです。
ミリタリンのレタスに対するEC50は150 mg/L程度であり(図3)、これは天然物最強の活性を持つ植物ホルモン、アブシジン酸の1/100程度の活性に相当し、天然物としては強い部類に入ります。
ミリタリンは、シラン地上部および根部に、それぞれの乾燥重量あたり約6%および7%と多量に含まれており、地上部が示す生育阻害活性の約50%、根部が示す阻害活性の約90%が本物質由来であることが判明しました(図3)。
シランの雑草抑制効果は野外の圃場試験においても確認されています(図4)。球根による繁殖が容易な日本在来の多年生植物ですが、種子繁殖しないため、この植物自身が自然界で無秩序に繁殖することは少なく、また日当たりのよい畑や畦畔でも生育可能なことから、今後水田畦畔や庭園における被覆植物としての普及が期待されます。

本研究は、生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出基礎的研究推進事業「アレロケミカルの探索と新規生理活性物質の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:情報化学物質生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 藤井義晴、平舘俊太郎、加茂綱嗣、作野えみ、竹村知子
発表論文等:1) Sakuno et al. Weed Biol. Management 10, 202-207 (2010)


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