農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 22

化学肥料の施肥由来のアンモニア発生インベントリー

[要約]
欧州環境庁のガイドブックに準じ、水田への尿素施肥と黒ボク土畑への化学肥料施肥を加えたアンモニア発生係数を求めました。化学肥料の施肥によるわが国の大気へのアンモニア発生量は1.4万〜2.3万トン窒素(1971〜2002年)と算定されました。
[背景と目的]
窒素肥料の施肥によりアンモニアが大気へ揮散する可能性があります。揮散したアンモニアは微小エアロゾルの形成や一酸化二窒素の間接発生などを通じて気候変動に影響を及ぼします。しかし、日本独自のアンモニア発生係数はまだ算定されておりません。そこで、欧州の発生係数に準じ、日本の実情を考慮した化学肥料の施肥由来の発生係数および発生インベントリーを算定することを目的として研究を行いました。
[成果の内容]
日本では農耕地への化学肥料の施肥に伴い大気へ揮散するアンモニアの量を算定するための係数(発生係数)が求められておりません。そこで、日本の重要な農耕地である水田や、アンモニア揮散を抑制するはたらきが解明されつつある火山灰土壌(黒ボク土)の畑を対象としたアンモニア発生係数を算定しました。さらに、2009年版の欧州環境庁発生インベントリーガイドブックの発生係数と組み合わせて、主な化学肥料の発生係数を整理しました(表1)。これらの発生係数は春季の平均気温の一次式であり、気温を指標とした気候の相違を考慮することができるため、わが国への適用が可能と期待されます。 水田については、野外実験から得られた尿素の施肥に伴うアンモニア揮散率(施肥窒素の8.2%)にアンモニア揮散の数値モデルによる温度補正を加えて発生係数を求めました。 黒ボク土については、黒ボク土の畑における野外実験と黒ボク土を用いた培養実験において施肥に伴うアンモニア揮散がとても小さかったことを考慮して、農耕地が黒ボク土の畑の場合には発生係数を0.1倍とする補正を導入しました。 アンモニア発生係数と日本における化学肥料消費量の統計情報(FAOSTAT)を利用して、わが国における化学肥料の施肥由来のアンモニア発生インベントリーを算定しました。1971〜2002年の全国の化学肥料の消費量46万3千〜82万1千トン窒素に対して(図1)、アンモニア発生量は1.4万〜2.3万トン窒素でした(図2)。 この成果は、農耕地への化学肥料の施肥による大気へのアンモニア発生量の推計や、大気輸送・沈着モデルなどによる窒素負荷の予測評価に大きく貢献します。

本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金基盤研究(A)「農業活動に由来するアンモニアの発生実態と生態系影響のインパクト解析」によるものです。
リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 林健太郎
発表論文等:1) Hayashi et al., Agric. Ecosyst. Environ., 140(3-4): 534-538 (2011).
2) Hayashi et al., Atmos. Environ., 43(35): 5702-5707 (2009).
3) Hayashi et al., Sci. Tot. Environ., 390(2-3): 485-494 (2008).


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