農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

普及に移しうる成果 5

イムノクロマトキットを用いた農産物のカドミウム濃度の簡易測定法

[要約]
イムノクロマトキットを用いたカドミウム濃度測定法を各種の農産物に適用するために、それぞれの品目に適した前処理や抽出法などを開発しました。これにより農産物別のカドミウム国際基準値に対応した濃度範囲を測定できます。
[背景と目的]
食品中のカドミウム(Cd)濃度の国際基準値が定められ、高額分析機器等を保有しない農業普及機関などで利用できる、簡易な測定法が求められています。抗原抗体反応に基づくイムノクロマトキットを用いたCd簡易測定法は、コメに関しては既に開発済みですが、畑作物については未検討でした。そこで、コメよりCd国際基準値が低く様々な夾雑物を含む畑作物の測定法を開発しました。
[成果の内容]
  1. 基本手順(図1)により、作物別の国際基準に対応したCdの濃度(表1)を測定できます(所要時間2-5時間、所要経費:初期投資10-20万円、1検体2000円程度)。
  2. Cdは、卓上ミルなどで粉砕(コメ、コムギ、ダイズ)または家庭用ミキサー等で磨さい(ホウレンソウ、サトイモ、ナス)した試料から、0.1 molL-1塩酸でほぼ抽出できますが、ダイズやサトイモなど固液分離の悪いものは、焼成や湯煎などの追加的な処理が必要です(図1表1)。
  3. 抽出液中には抗原抗体反応を妨害する他の重金属も含まれますが、Cd分離カラムにより問題ないレベルまで除去できることを、各種作物で確認しました。
  4. 農産物別のCd国際基準値に対応した濃度範囲までを測定できるように、適切な抽出倍率(A)と希釈倍率(B)を選ぶ必要があります(表1図2)。
  5. Cd濃度に対する発色の読み取り値は抗原抗体反応に一般的であるシグモイド曲線となりますが、中央部分はCd濃度の対数値と読みとり値間に直線関係が認められます(図2)。そこで、一般的な表計算ソフトで計算できる指数式検量線を用い、発色読取り値から抽出・精製液のCd 濃度を算出し、作物重量あたりの濃度に換算します。
  6. 種々の作物についてイムノクロマトキットでCd濃度を測定したところ、ICP発光分析値と良好な対応関係が得られました(図3)が、基準値付近の試料が基準を満たすかどうかなどを正確に判定するには、高精度の機器分析が必要です。
*本測定法に関しては分析手順書を作成しています。

本研究の一部は、農林水産省委託プロジェクト研究「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発 農産物におけるヒ素およびカドミウムのリスク低減技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:化学分析・モニタリングリサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 阿部薫、櫻井泰弘、中野亜弓(岩手県農業研究センター)、杉沼千恵子(埼玉県農林総合研究センター)、中村勝雄(住化分析センター)、俵田啓(関西電力)
発表論文等:1) Kaoru Abe et. al., J. Sci. Food Agric., DOI 10.1002/jsfa.4321


目次へ戻る   このページのPDF版へ