普及に移しうる成果 6
南西諸島で多発生した害虫は日本初発生のアフリカシロナヨトウである
- [要約]
- 2010年夏から秋にかけて沖縄県の多良間島・西表島、鹿児島県の喜界島・奄美大島でイネ科牧草やサトウキビを加害する見慣れないヨトウ類の幼虫が多発生しました。羽化した成虫を詳細に調べたところ、これまでわが国では害虫としての記録がないアフリカシロナヨトウと同定できました。
- [背景と目的]
- 2010年8月中旬〜9月上旬、沖縄県の多良間島と西表島で、これまで発生のなかったヨトウ類幼虫によるイネ科牧草やサトウキビへの加害が確認されました(図1)。また鹿児島県の喜界島と奄美大島においても、2010年9月中旬〜10月上旬、ヨトウ類幼虫による同様の被害が確認されました。幼虫による同定は困難でしたので、加害中の幼虫を採集して飼育し、羽化させた成虫にもとづいて種名を正確に同定することにしました。
- [成果の内容]
- 2010年8月中旬〜9月上旬に沖縄県の多良間島のイネ科牧草やサトウキビを加害中の幼虫(図2左)および同年8月中旬に沖縄県の西表島のギニアグラスやサトウキビを加害していた幼虫(図2右)を採集・飼育し、羽化成虫(図3左)を得ることができました。これらの成虫を解剖し、農業環境技術研究所所蔵の杉繁郎コレクションの標本(図3右)や文献などを参考に交尾器等の形態を詳細に比較検討したところ、チョウ目ヤガ科アフリカシロナヨトウ Spodoptera exempta (Walker) と同定することができました。その後、同年9月中旬〜下旬に鹿児島県の喜界島でイネ科牧草やサトウキビを加害していた幼虫および同年10月中旬に鹿児島県の奄美大島でイネ科牧草を加害していた幼虫からそれぞれ成虫を得て同様な方法で同定したところ、全て同じアフリカシロナヨトウでした。
本種は、アフリカからアジアの熱帯地域、オーストラリア、ハワイを含む太平洋の島嶼に分布する著名な移動性の害虫で、主にイネ科のサトウキビ、イネ、トウモロコシ、ソルガムなどの作物を加害することが報告されています。わが国では、これまで成虫の採集記録が僅かにありましたが(表1)、幼虫の発生や作物への加害事例は確認されていませんでした。成虫は本州、九州でも採集されていますので、南西諸島以外でも今後の発生に注意が必要です。なお、今回の情報は農業環境技術研究所の昆虫インベントリーシステムに掲載し、一般に公開します。
リサーチプロジェクト名:環境資源分類リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 吉松慎一、上里卓己(沖縄県病害虫防除技術センター)、指宿 浩・湯田達也(鹿児島県農業開発総合センター・大島支庁駐在)
発表論文等:吉松慎一ら、蛾類通信260: 243-245 (2011)
沖縄県病害虫防除技術センター平成22年度病害虫発生予察特殊報第1号
鹿児島県病害虫防除所平成22年度病害虫発生予察特殊報第2号