農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 32

赤かび毒デオキシニバレノールを分解する細菌 Nocardioides sp. WSN05-2 株をムギ栽培圃場から分離

[要約]
ムギ類赤かび病菌が生産するかび毒デオキシニバレノール(DON)を分解する細菌 Nocardioides sp. WSN05-2 株をムギ栽培土壌から分離しました。DON処理したムギ穀粒にWSN05-2株を接種したところ、7日間でDONが90%減少しました。
[背景と目的]
デオキシニバレノールはムギ類赤かび病菌が生産するかび毒で、コムギやオオムギが感染し、このかび毒が穀粒に蓄積すると、人や家畜の食中毒や免疫機能の低下の原因となることから、世界中で深刻な問題となっています。国内でも、デオキシニバレノールは、「農林水産省が優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト」に入っており、かび毒低減技術の開発が求められています。農業環境技術研究所では、農業環境中の微生物の利活用を目指しており、その技術を活かしてデオキシニバレノール分解細菌の分離を試みました。
[成果の内容]
  1. 赤かび病(図1)が発生しているコムギ栽培圃場の土から、デオキシニバレノールを唯一の炭素源とした培地で増殖できるデオキシニバレノール分解細菌 Nocardioides sp. WSN05-2 株を分離しました(図2)。グラム陽性の好気性分解細菌の報告は世界で初めてです。
  2. 分解細菌WSN05-2株は、培地に1000μg/ml添加したデオキシニバレノールを10日間で完全に消失させました。このことから、デオキシニバレノールに含まれる炭素は、代謝産物Aを経由して無毒化合物に変換され、最終的に菌株の構成成分になったと考えられます。
  3. デオキシニバレノール液(1000μg/ml)にムギ粒を浸漬して作成した汚染粒を用いて、分解細菌WSN05-2株の分解能を調べたところ、分解細菌を処理したムギ粒では、7日間で無処理に比べデオキシニバレノールが約90%減少しました。
  4. 分解細菌WSN05-2株による最初の代謝産物は3-エピ-デオキシニバレノールであることがわかりました。デオキシニバレノールが3-エピ-デオキシニバレノールに代謝されるという報告は世界で初めてです(図3)。
  5. ムギ粒やサイレージの汚染など様々な場面での汚染低減への利用が期待されます。

本研究の一部は農林水産省委託プロジェクト研究「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業環境情報・指標リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 對馬誠也、生長陽子、佐藤育男、生物生態機能研究領域 吉田重信、小板橋基夫、伊藤通浩、生物多様性研究領域 平館俊太郎
発表論文等:1) 對馬誠也ら:特願2007-058335号(2007.3) 特開2008-220179(2008.9)
2) Yoko Ikunaga et al., Applied Microbiol. Biotechnol. 89: 419-427.2011.


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