農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

NIAES施策推進上の活用が期待される成果(主要研究成果)

農業環境中の放射性物質長期モニタリングデータの活用

ポイント

・ 農耕地土壌とそこに栽培される作物の放射能汚染に関する日本における唯一の情報として長期モニタリングデータを公開。福島第一原発事故の際の土壌や作物汚染の対照データとして活用されました。

概要

1. (独)農業環境技術研究所は1959年から全国の農業関係試験研究機関の協力により、米麦およびその栽培土壌の Cs-137 と Sr-90 の放射能濃度の分析を行ってきました。

2. 農耕地土壌とそこに栽培される作物の放射能汚染に関する日本における唯一の情報として公開するとともに、福島第一原発事故の際の土壌や作物汚染の対照データとして活用されました

研究(開発)の社会的背景と研究の経緯

1945年から開始された大気圏核爆発実験やその後の原子力施設事故により放出された放射性物質による農地土壌や作物の汚染状況を把握するため、旧農業技術研究所では土壌および農作物の Cs-137 と Sr-90 の調査・研究を全国の関係農業試験研究機関と連携・協力して1959年から開始し、今日に至っています。 その成果は、1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故や1999年の東海村ウラン加工施設での臨界事故などの際に、農地土壌や農作物の汚染状況を評価するのに用いられてきました。 このように、長期間かつ多くの定点を持つ観測網で、土壌・農作物の放射能汚染調査が継続されている例は他には見られません。

研究の内容・意義

1) (独)農業環境技術研究所では、1959年から、北海道〜九州の公設農業試験研究機関の水田最大15地点、畑最大13地点(図 1)で栽培された水稲または小麦および作土の提供を受け、玄米、白米、玄麦、小麦粉および土壌の Cs-137 と Sr-90 の放射能濃度について、ゲルマニウム半導体検出器などを用いて公定法により分析を行いました。

2) 分析結果を公開した「主要穀類および農耕地土壌の 90Sr と 137Cs 分析データ一般公開システム(https://vgai.dc.affrc.go.jp/vgai-agrip)」では1959〜2010年各年の白米、玄米(2001年まで)および水田作土並びに玄麦、小麦粉および畑作土の Cs-137 と Sr-90 濃度の最高値、最低値、日本海側・太平洋側・全国の平均値および標準偏差などを記載しています(図 2)。 また、土壌では全 Cs-137、全 Sr-90 濃度の他に、放射性物質の作物吸収の指標とされる1 規定酢酸アンモニウム溶液抽出の置換態濃度を記載しています。

3) 水田作土における Cs-137 および Sr-90 ともに最も放射能濃度が高かったのは1964年でしたが、放射性物質降下量の減少、放射能の減衰および作物吸収などにより、2010年ではそれぞれ全国平均で、5.9 Bq/kg、0.54 Bq/kg まで低下していました(図 34)。 玄米中の Cs-137 および Sr-90 の放射能濃度が最も高かったのは1963年で、それぞれ、11.5 Bq/kg 、3.6 Bq/kg でしたが、放射性物質降下量の減少、放射能の減衰および土壌中の置換態濃度の低下などにより、2000年には、それぞれ 0.039 Bq/kg、0.013 Bq/kg まで減少していました。

活用実績・今後の予定

これらのデータは、平成23年4月8日に原子力災害対策本部から発表された、「稲の作付に関する考え方」において、作物への移行の指標としての玄米移行係数 * 0.1 の算定に活用されました。これによって、警戒区域などに加え、生産した玄米の放射性セシウム濃度が食品衛生法の暫定規制値を超える可能性の高い地域について稲の作付制限を行うとの考え方が示されました。

今後、2011年のデータを付加するとともに、福島県を中心とする地域に新たにモニタリングサイトを設定して農地土壌と作物の放射性物質濃度の測定を開始し、福島第一原発事故の影響を把握する予定です。

予算: 文部科学省委託プロジェクト「放射能調査研究費」

問い合わせ先など

研究担当者: (独)農業環境技術研究所:土壌環境研究領域

上席研究員    木方 展治
TEL 029-838-8433

用語の解説

* 移行係数: 土壌中の放射性物質濃度に対する農作物中の放射性物質濃度の比で、農作物の放射性物質の吸収のしやすさを表す。



図1 試料採取地点

図2 「主要穀類および農耕地土壌の90Srと137Cs分析データ一般公開システム」のデータ

図3 玄米、白米および水田土壌中のCs-137放射能濃度の全国平均の推移

図4 玄米、白米および水田土壌中のSr-90放射能濃度の全国平均の推移

目次へ戻る   このページのPDF版へ