農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

リン酸吸収係数を用いた汎用的な黒ボク土用改良 RothC
(RothC-26.3_vPAC)

[要約]
汎用的な土壌特性値であるリン酸吸収係数(リン吸)を用いることにより、土壌炭素動態モデルRothC の黒ボク土用改良モデル(RothC-26.3_v)を再改良しました。この再改良モデル(RothC-26.3_vPAC)は従来よりも汎用性が高く、精度も同等以上です。
[背景と目的]
土壌有機物の集積・分解過程が特異的な黒ボク土に適合するように改良された黒ボク土用改良RothC(RothC-26.3_v)は、測定コストの高いピロリン酸塩可溶アルミニウム含量(Alp)の入力が必要なため、広域的にも生産現場においても適用が難しい状況でした。そこでAlp よりも汎用的な土壌特性値であるリン吸を用いてRothC-26.3_v の再改良を試みました。
[成果の内容]
  1. リン吸を用いたモデルの再改良
    リン吸は、腐植画分の分解遅延係数(世界的に用いられている土壌炭素動態モデル RothC-26.3 における腐植画分の分解率をどれくらい遅くすれば実測値と一致するかを表す指標)との間にAlp よりもやや強い正の相関関係がありました(図1)。そこで、図1(右図)の関係を組み込んでRothC-26.3_v を再改良し、汎用性の高い黒ボク土用再改良モデル(RothC-26.3_vPAC)を開発しました。
  2. モデルの予測精度の比較
    長期連用試験データを用いて各モデルの予測精度評価を行ったところ、RothC-26.3_vPACの予測精度はRothC-26.3 より大幅に高く、RothC-26.3_v と同等かそれ以上でした(図2 および表1)。
    長期連用試験の概要:
    北見(1959 年開始);堆厩肥・作物残渣施用など7 処理区、
    藤坂(1936 年開始);化学肥料単用・堆厩肥・作物残渣施用など7 処理区、
    塩尻(1938 年開始);無施肥・化学肥料単用・堆厩肥・作物残渣施用など10 処理区、
    大隅(1988 年開始);化学肥料単用・堆厩肥・作物残渣施用など6 処理区
  3. 黒ボク土用再改良RothC(RothC-26.3_vPAC)の利活用分野
    わが国の農地土壌の炭素動態の広域評価や、適正な有機物資材の施用量の計算など黒ボク土農地の有機物管理に活用できます。

本研究の一部は、農林水産省気候変動対策プロジェクト研究「農林水産分野における温暖化緩和技術及び適応技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 高田裕介、大倉利明、神山和則、小原洋、白戸康人
発表論文等:1) Takata et al., Soil Sci. Plant Nutr., 57: 421-428 (2011)


図1 黒ボク土におけるRothCのHUM(腐植)画分の分解遅延係数とAlpおよびリン酸との関係

図2 長期連用試験の結果を用いた各モデルの予測精度の比較

表1 長期連用試験(4地点)の結果を用いた各モデルの予測精度の評価(Mg ha-1)

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