農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

日本における気候変化の農業影響と適応・緩和策を評価するための地点・日別気候変化シナリオデータセット(ELPIS-JP)

[要約]
全国の気象官署とアメダス4 要素観測点、計938 地点における日別の気候変化シナリオデータセットを作成しました。これにより、地点あたり1300 パターンの多数のシナリオが利用可能になりました。
[背景と目的]
気候変化の農業分野への影響評価や適応・緩和策の検討には気候変化シナリオが不可欠です。これまでもシナリオが作成されてきましたが、使用できる温室効果ガスの排出シナリオの種類や気候モデルの数が限られていました。そこで、日本の各地点で多数のシナリオが利用できるように、確率モデル(ウェザージェネレーター)を適用して、これまで得られなかった多数のシナリオが利用可能なデータセットを作成しました。
[成果の内容]
ELPIS-JP データセット(図1)は、気候変化が日本の農業分野に及ぼす影響と気候変化への適応・緩和策の検討のために作成された気候変化シナリオデータセットです。気象官署およびアメダス4 要素観測地点(合計938 地点)で1981-2091 年の111 年間について農業研究に使用される多くのモデルの入力値として必要な7 種類の気候要素(日平均・最高・最低気温、降水量、積算日射量、相対湿度、風速)の日別時系列値が利用できます。
本データセットは気候変動に関する政府間パネルが提示する高・中・低の温室効果ガス排出シナリオ(A2・A1B・B1)と10 個の全球気候モデルの組み合わせから、26 個の気候変化予測を利用しました。各予測についてウェザージェネレーターという確率モデルを用いて日々変動が異なる50 個の時系列を作成しました。このため、1 地点あたり現在・将来気候のそれぞれについて1300 パターン(26 予測×50 時系列)のシナリオが利用できます。
観測された気象要素の時系列は統計的に起こり得た現在気候シナリオの一つに相当します。多数のシナリオを用いることで、単一のシナリオでは描き出すことができない気候要素の将来変化の不確実性についての情報が得られます(図2)。また、水稲の開花期といった作物の特定の生育ステージにおける高温の発生確率を推定するなどの応用も可能です。
なお、「ELPIS」はラテン語で「希望」を意味し、欧州のシナリオデータセットにその名が冠されていることから、本データセットを「ELPIS-JP」と命名しました。利用希望者は下記担当者に連絡することにより、情報を利用することができます。

本研究は、環境省地球環境研究総合推進費「温暖化影響評価のためのマルチモデルアンサンブルとダウンスケーリングの研究」と「総合的気候変動シナリオの構築と伝達に関する研究」の成果です。
リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト、作物応答影響予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 飯泉仁之直、西森基貴、石郷岡康史、桑形恒男
発表論文等:1) Iizumi et al., Phil. Trans. Roy. Soc. A, 370:1121-1139, (2012)


図1 ELPIS-JP データセットの概要

図2 気候変化シナリオの例

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