農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

気温や降水量がダイズやトウモロコシの収量に与える影響のマップ化

[要約]
ダイズとトウモロコシの主要生産国を対象に、過去27 年間のメッシュ化した作物収量と気象との関係を解析し、気象と収量の現在における関係の広域地図を作成しました。
[背景と目的]
気候変動が世界の作物収量に及ぼす影響についてのこれまでの研究の多くは、国や州の平均収量を対象とし、気象と収量の関係の時間変化も考慮していませんでした。そこで、ダイズとトウモロコシの主要生産国を対象に、過去の収量統計データを気象データと同じ空間スケールにメッシュ化し、粒子フィルター法と呼ばれる説明変数と従属変数との関係の時間的な変化を考慮して分析できる統計手法を用いて、気象と収量変動の関係を解析しました。
[成果の内容]
世界のダイズおよびトウモロコシの約70%を生産するアメリカ合衆国、中華人民共和国(中国)、ブラジルの3 ヶ国を対象として、農業統計が利用可能な1980 年 (ブラジルは1990年) から2006 年までの27 年間の作物収量データを収集しました。そのデータを緯度・経度1.125°のメッシュに割り付け、それぞれのメッシュにおいて、収量の年次変動と生育期間の気温・降水量の年次変動との関係を、粒子フィルター法を用いて統計的に解析しました。上記の期間の気象データは気象庁再解析データ(JRA25) を用いました。
現在(2000 年代)における気温感度(生育期間の平均気温が1℃増加したときの作物収量の変化率)と降水感度(生育期間平均の日降水量が1mm 増加したときの作物収量の変化率)の地理的分布からは、北半球の北緯約40 度以南で、トウモロコシ、ダイズとも、気温上昇によって減収しやすい(気温感度が負)ことや、ブラジルでは中部地域 (南緯10度付近のサバナ気候地帯) とそれ以外の地域で降水感度が異なることがわかりました (図1)。また、気温感度および降水感度は、年代によって変化していることが分かりました (図2、気温感度の例)。特に、アメリカ合衆国のコーンベルト付近では、近年、トウモロコシ、ダイズとも、負の気温感度の絶対値が小さくなってきていることが分かりました (図3)。これには 栽培品種の特性や播種時期の変化が関わっていると考えられます。これらの結果は、気象と収量の関係性の解析において、時間変化を考慮することが重要であることを意味します。
以上の解析により、主要生産国における1980〜2000 年代の収量と気象との関係とその変化を明らかにすることができました。この結果は、気候変動が収量に与える影響の将来予測に示唆を与えます。

本研究は、文部科学省・21世紀気候変動予測革新プログラム「気候変化に伴う自然災害が世界の主要穀物生産の安定性に及ぼす影響評価」による成果です。
リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 櫻井 玄、横沢正幸、飯泉仁之直
発表論文等:Sakurai et al., Clim. Res., 49: 143-145 (2011)


図1 2000年代(2000〜2006年)の気温感度と降水感度

図2 気温感度の年代による変化

図3 気温感度と降水感度の変化傾向の地理的変異

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