農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

ツルマメ種子がはじけて飛散する距離を調べて遺伝子組換えダイズとの交雑を防止する

[要約]
ツルマメはダイズの祖先種とされる雑草で日本にも分布しています。また、成熟すると莢がはじけ、種子が飛び散ります。本研究では、遺伝子組換えダイズとツルマメとの交雑を防止するため、ツルマメ種子の飛散距離とその頻度を明らかにしました。
[背景と目的]
ツルマメは東アジアに広く分布するダイズの祖先とされる野生種であり、成熟すると莢がはじけて(図1)、種子が飛散します。現在わが国における栽培が承認されている遺伝子組換えダイズは、ツルマメとの交雑率の低さや導入形質から判断して、交雑によって生物多様性に影響するおそれはありませんが、飛散したツルマメ種子が遺伝子組換えダイズほ場内に入り込むと、次の年に遺伝子組換えダイズと交雑し、導入した遺伝子がツルマメやツルマメを介して非組換えダイズに流動する可能性も想定されます。そこで、遺伝子組換えダイズのほ場周囲の植生の管理を効果的に行うため、ツルマメ種子の飛散可能距離と頻度を調査しました。
[成果の内容]
ツルマメの種子が、最大どのくらい遠くまで、どの程度莢が開裂してはじけ飛ぶ(以後「飛散」とする)かについて調べるために、種子が転がりやすいように粘着性のない白い防草シートを敷き、ツルマメを中心として0.5m ごとに同心円を描き、距離ごとの種子の飛散数を数えました(図2)。つる性のツルマメがセイタカアワダチソウなどの植物にからみつき、草丈を伸ばすことを考え、高さ1.8m の箱状の網を設置しました。その結果、1区画(ツルマメ20 個体)あたり約13,000 個の種子が生産され、莢が開裂しないものもありましたが、そのうち約40%の種子が飛散し、その数はその距離とともに減少することがわかりました(図3)。私たちは一般化線形モデル(GLM)を用いてこの結果を解析しました。そして、飛散した種子の95%が3.5m 以内、99%が5m 以内、99.9%が6.5m 以内に分布することを明らかにしました。また、このモデルは、調査種子数や草丈などが異なる実験条件で行われた過去の結果(Li ら1997、Oka1983)ともほぼ一致しました。
遺伝子組換えダイズとツルマメとの交雑を低減するには、ほ場周囲の植生を除草する等、両種を一定の距離で隔離する方法が考えられます。その際、ここで得た知見に基づき、除草範囲や隔離に必要な距離を決めることが出来ます。

本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」による成果です。
リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え・外来生物影響評価リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 吉村泰幸、松尾和人、水口亜樹(現:(独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター)
発表論文等:1) Yoshimura et al., Weed Biology and Management 11: 210-216 (2011)


図1 ツルマメの開裂前(左)の莢および開裂後(右)の莢

図2 種子飛散を測定する試験ほ場の様子

図3 ツルマメ種子の飛散距離と飛散種子数の関係

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