農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

コナカイガラムシ類の寄生蜂を強力に誘引する物質を発見

[要約]
コナカイガラムシ類の土着天敵である2 種の寄生蜂を強力に誘引する物質・シクロラバンデュリルブチレートを発見しました。これらの天敵を誘引することで、コナカイガラムシ類の防除に役立てることができます。
[背景と目的]
コナカイガラムシ類は様々な果樹・野菜類の重要害虫です。殺虫剤の代替となる環境に優しい防除資材として天敵寄生蜂類が有望視されていますが、その行動を制御する技術は確立されていません。そこで、本研究では、フジコナカイガラムシの性フェロモントラップに多数の寄生蜂が混入することに着目し、これらのハチがフジコナカイガラムシの性フェロモンそのものではなく、その合成過程で生じる副産物に強力に誘引されることを突き止め、その化学構造を決定しました。
[成果の内容]
フジコナカイガラムシの合成性フェロモントラップには、トビコバチ類が混入することがわかっていました。本研究で詳しく調査したところ、フジコナカイガラムシの性フェロモン剤には有機合成過程で生じる副産物が極微量に含まれており、この物質がトビコバチ類を強力に誘引していることが明らかとなりました。この副産物の構造を質量分析計や核磁気共鳴装置を用いて決定し、シクロラバンデュリルブチレート(新規化合物、以下CLBと表記)と命名しました。CLB はラベンダー香の成分であるラバンデュロールが環化した特徴的な炭素骨格を持つモノテルペノイドです(図1)。
CLB を誘引源としたトラップを野外に設置したところ、コナカイガラムシ類の天敵であるサワダトビコバチAnagyrus sawadai Ishii とフジコナヒゲナガトビコバチLeptomastix dactylopii Howard が捕獲されました(図2図3)。一方で、その後のコナカイガラムシ類の天敵相調査の結果、これらのハチは試験圃場内にはほとんどみられないことがわかりました。そのため、多数のハチが圃場外から誘引されたことが示唆されました。この物質は非常に強力な寄生蜂誘引活性を持つものと考えられます。
CLB を設置した樹上のコナカイガラムシの寄生率を調査したところ、設置しなかったところに比べて寄生率が6 倍以上に上昇することが判明しました。本物質を低コストで合成する方法を開発することができれば、コナカイガラムシ類の総合的防除技術のひとつとして活用できると考えられます。なお、トビコバチ類の同定においては東浦祥光氏(山口県農林総合技術センター)のご協力を賜りました。

リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 田端 純、平舘 俊太郎、杉江 元、釘宮 聡一、手柴 真弓(福岡県農業総合試験場)、清水 信孝(同左)、堤 髟カ(同左)
発表論文等:
1) Tabata et al., Appl. Entomol. Zool., 46:117?123 (2011)
2) Teshiba et al., Entomol. Exp. Appl., 142:211?215 (2012)


図1 シクロラバンデュリルブチレート(上)とラバンデュロール(下);図2 サワダトビコバチ Anagyrus sawadai Ishii(上)とフジコナヒゲナガトビコバチLeptomastix dactylopii Howard(下)

図3 シクロラバンデュリルブチレートの含浸量と寄生蜂誘引活性の関係

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