農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

畑ワサビの害虫ゾウムシを新種として発表

[要約]
これまでアブラナ科野菜の害虫であるミドリサルゾウムシと混同されてきたワサビの害虫について分類学的研究を行った結果、未知の種であることが判明したため、新種ワサビルリイロサルゾウムシCeutorhynchus wasabi Yoshitakeとして発表しました。
[背景と目的]
1999 年、岩手県岩泉市のワサビ畑で見慣れないゾウムシによる被害が発生しました(図1)。当初、本種はアブラナ科野菜の害虫として知られるミドリサルゾウムシと同定され、防除対策がとられました。しかし、後に本種はミドリサルゾウムシではなく、正体不明の別種であると指摘されましたが、種名が確定しないままミドリサルゾウムシと混同される状態が続いていたため、この問題の解決を目指して分類学的研究を行いました。
[成果の内容]
畑ワサビを加害する正体不明の害虫について、詳細な形態観察に基づく分類学的研究を行った結果、未知の種であることが確認できたので、ワサビルリイロサルゾウムシ Ceutorhynchus wasabi Yoshitake と命名し、新種として発表しました(図2)。
北海道と東北地方北部に分布する本新種は、北東アジアに広く分布するミドリサルゾウムシ Ceutorhynchus filiae Dalla Torre(図3)と形態的によく似ていますが、ミドリサルゾウムシは上翅を含む体全体が銅色〜暗緑色であるのに対し、本新種では上翅がメタリックブルーで、それ以外の体の大部分が青色光沢のある黒色であること、体側面が白色鱗片で密に覆われることなどによって明確に識別できます。また、ロシア沿海州や朝鮮半島でコンロンソウ類(アブラナ科)に寄生する近似種ルリイロサルゾウムシ Ceutorhynchus nitidulus Faust(図4)は各脚の腿節に小突起があることや体側面の白色鱗片がまばらである点で本新種とは異なります。
過去、本新種はアブラナ科野菜の害虫であるミドリサルゾウムシと混同されたため、ワサビの害虫としてミドリサルゾウムシの名で農林有害動物・昆虫名鑑の増補改訂版(2006)に掲載されるなど、分類学的な取り扱いに混乱がみられましたが、今回、近似種との識別点が明らかになったことにより、農業や害虫防除に携わる人々が本種に関する情報を正しく取得することが可能になりました。

リサーチプロジェクト名:農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 吉武 啓、藤沢 巧(岩手県農業研究センター)、後藤純子(岩手県中央農業普及センター)、千葉武勝(盛岡市)
発表論文等:1) Yoshitake et al., Japanese Journal of Systematic Entomology, 17: 293-299 (2011)


図1 畑ワサビを食害するワサビルリイロサルゾウムシ

図2 ワサビルリイロサルゾウムシの形態的特徴

図3 ミドリサルゾウムシの形態的特徴

図4 ルリイロサルゾウムシの形態的特徴

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