農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

高 CO2 濃度によるコメの増収効果は高温条件で抑制される
−岩手と茨城で実施したFACE実験から予測、品種による違いも確認−

[要約]

国内の2地点におけるFACE(開放系大気 CO2 増加)実験の結果、高 CO2 濃度によってコメの収量は増加しましたが、その効果は高温条件で低下することが分かりました。また、高 CO2 濃度による増収効果は、品種によっても大きく異なることが分かりました。

[背景と目的]

大気 CO2 (二酸化炭素)濃度の上昇は地球規模での環境変動の原因になりますが、それ自体は光合成を促進して作物の収量を増加させると考えられています。しかし、その増収がどの程度か、どのような要因で変化するのかは、十分に理解されていませんでした。そこで、温度条件が大きく異なる国内2地点の農家水田でFACE実験を行い、生育・形態特性の異なる水稲品種を栽培することにより、高 CO2 濃度による増収効果がどのような要因で異なるかを調査しました。

[成果の内容]

(独)農業環境技術研究所は、(独)農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センターなどと共同で、CO2 濃度を現在よりも 200 ppm 高めた屋外水田でイネを栽培する FACE 実験を、岩手県雫石町と茨城県つくばみらい市の2地点で実施しました(図1)。雫石(7年間)と、つくばみらい(2年間)での実験で基幹品種とした「あきたこまち」の収量を比較したところ、高 CO2 濃度により平均で13%増収しました。しかし、増収効果は、冷害年を除くと高温条件で低下することが分かりました(図2)。このことから、温暖化条件では、高 CO2 濃度による増収が、期待されるほど大きくならない可能性が示されました。さらに、特性の異なる品種を2地点(雫石:2007・2008年、つくばみらい:2010年)で比較したところ、高 CO2 濃度による増収効果は品種によっても大きく異なりました(図3)。 特に、つくばみらい FACE で使用した8品種の増収率には、3%から36%まで大きな違いがあり、品種改良を通じて高 CO2 濃度による増収効果を向上できる可能性が示されました。これまで、高CO2濃度条件によって収量が増加することは知られていましたが、温度条件や品種によって、その程度が大きく変動することが本研究で示されました。ここで得られた結果は、温暖化影響の将来予測に反映させるとともに、高温・高 CO2 濃度環境に適した品種開発に活用する予定です。

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究 「農林水産分野における地球温暖化対策のための緩和および適応技術の開発」 および文部科学省科研費新学術領域研究 「植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高 CO2 応答の包括的解明」 による成果です。

リサーチプロジェクト名: 作物応答影響予測リサーチプロジェクト

研究担当者:大気環境研究領域 長谷川利拡、吉本真由美、酒井英光、福岡峰彦、臼井靖浩、若月ひとみ、 物質循環研究領域 常田岳志、片柳薫子
中村浩史(太陽計器(株))・松波寿典(秋田県農試)・金田吉弘・佐藤 孝・高階史章(秋田県立大学)・鮫島良次(現北大)・岡田益己(岩手大)・前忠彦・牧野周(東北大学)

発表論文等: Hasegawa et al. Functional Plant Biology, February (2013) 40, 148-159.

図1 岩手県雫石町および茨城県つくばみらい市における水田FACE実験施設

図2 FACE実験を実施した9年(雫石7年、つくばみらい2年)の生育期間中の平均気温と、共通品種として用いた「あきたこまち」の玄米収量(左)、地上部全重(中)、収穫指数(収量/地上部全重)(右)との関係

図3 高CO2による玄米収量の変化率と品種のシンク容量の関係:雫石(2007、2008年)、つくばみらい(2010年)の結果

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