農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

気候モデルが出力する気温などのデータの統計的誤差を補正するプログラム

[要約]

気候モデルが推定した気象要素の日別値に含まれている統計的な誤差(バイアス)を、観測値に基づいて補正する手法を開発しました。本手法は、気候モデルによる現在再現値と将来予測値のいずれに関しても適用できます。

[背景と目的]

気候モデルの推定値にはバイアスが含まれており、それを取り除かない限り、作物モデルなどへの入力データとして使用できません。そこで、作物モデルの入力データとして必要な7種類の気象要素(日最高・最低・平均気温と降水量、日射量、相対湿度、風速)に関して、気候モデルの推定値からバイアスを取り除く手法を開発し、公開しました。

[成果の内容]

本手法では、まず、任意の地点・気象要素について、気候モデルの推定値と観測値を比較し、気候モデルの推定値に含まれているバイアスを評価します。ここでは、気候モデルの推定値と観測値のそれぞれについて頻度分布を作成し、2つの頻度分布の形状が同じになるように各階級におけるバイアスの量を特定します。次いで、そのバイアスを気候モデルの推定値から取り除くことによって、バイアスのない推定値が得られます(図1)。この手法に基づく一連の作業は、Windows の実行ファイル形式で配布される本プログラムによって行うことができます。

本手法を適応した結果、気候モデルから得られた現在の推定値(現在再現値)は、バイアスを取り除くことによって、観測値とほぼ一致しました(図2)。また、気候モデルから得られた将来の推定値(将来予測値)から、このバイアスを取り除くことにより、モデル間の予測値のばらつきが縮小しました。

本手法では、気候変化による気象要素の変化量は保ちつつ、気候モデルから推定された日別値の頻度分布の形状を、観測によって得られた日別値の頻度分布にほぼ一致させることができます。頻度分布の形状を補正しているため、平均や分散だけでなく、分布が非対称性を表す歪度などの高次の統計量も補正されます。これにより、日別値の頻度分布が正規分布と著しく異なるためにバイアスを取り除くことが困難であった気象要素(降水量や日射量、相対湿度、風速)にも、この手法が適用できます。

本研究は環境省環境研究総合推進費 「温暖化影響評価のためのマルチモデルアンサンブルとダウンスケーリングの研究」 の成果です。プログラムの利用をご希望される方は、連携推進室までお問い合わせ下さい。

リサーチプロジェクト名: 食料生産変動予測リサーチプロジェクト

研究担当者:大気環境研究領域 飯泉仁之直、西森基貴

発表論文等: 1) Iizumi et al., J. Geophys. Res., 116:D01111 (2011) 、 2) Iizumi & Nishimori, Global Environ. Res., 15:95-102 (2011)、 3) 飯泉ら, 農業気象, 66:131-143 (2010)、

図1 本手法の概要

図2 気候モデルの推定値からバイアスを取り除くことの効果

目次へ戻る   このページのPDF版へ