農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

気候変化に伴う極端な降水や乾燥についての高解像度予測データセット

[要約]

複数の気候モデルに基づいて、極端な降水や長期の乾燥に関する将来の予測値を日本全国、高解像度で月別に整備しました。耕地からの土壌流出や農業用水管理などに対する気候変化の影響の評価やその適応策の研究への利用が期待されます。

[背景と目的]

気候変化に伴い、わが国でも、将来、極端な降水や乾燥の長期化が懸念され、耕地の土壌流出や中山間地域の土砂災害、農業用水管理などの研究の重要性が増しています。しかし、従来の極端な降水や乾燥に関する気候モデル予測値は、複数のモデルによる予測だが、空間解像度が低い、あるいは、高解像度だが、単一のモデルによる予測しかないなどの問題がありました(図1)。そこで、全国を対象に、複数の気候モデルを用いて、極端な降水や乾燥に関する予測値を高解像度(20kmメッシュ)のデータセットとして整備しました。

[成果の内容]

本データセットには、日本の陸域を覆う20kmメッシュのそれぞれで、現在(1981 〜 2000 年)と将来(2081 〜 2100 年)の月別の 1.平均日降水量、2.降水日数、3.一降水日あたりの降水量、4.日降水量の90パーセンタイル値(非常に強い降水を表し、100日間の日降水量を少ない順に並べたときに90番目の値)、および 5.連続無降水日数 という5種類の降水指標が収められています。

これらの降水指標は、東京大学などが開発した全球気候モデル MIROC3.2-HIRES が温室効果ガス排出の中位シナリオ(A1B)に基づいて予測した結果(120kmメッシュ)を、気象研究所などの3つの領域気候モデル(NHRCM、NRAMS、TWRF)と1つの領域統計モデル(CDFDM)を用いて高解像度(20kmメッシュ)にしたものです。このため、これまで難しかった耕地の土壌流出や中山間地域の土砂災害、農業用水管理に関する影響評価が可能となりました。

また、本データセットには4つの領域気候モデルから推定した予測値が含まれていることから、複数の気候モデル間での予測値のばらつきについても知ることができます。例えば、日降水量の90パーセンタイル値に代表される非常に強い降水は6〜8月に全国でさらに強くなると予測されます(図2左)。いっぽう、連続無降水日数に代表される長期の乾燥はモデルによって将来変化がばらつく傾向にあることが分かります(図2右)。

本研究は環境省環境研究総合推進費 「温暖化影響評価のためのマルチモデルアンサンブルとダウンスケーリングの研究」 の成果です。プログラムの利用をご希望される方は、連携推進室までお問い合わせ下さい。

リサーチプロジェクト名: 食料生産変動予測リサーチプロジェクト

研究担当者: 大気環境研究領域 飯泉仁之直、西森基貴、櫻井玄

発表論文等: 1) Iizumi et al., J. Geophys. Res., 117:D11114 (2012)

図1 従来、使われていた極端な降水と乾燥に関するデータセットの問題点と本データセットで改良された点

図2 複数の気候モデルによる夏季(6〜8月)の降水指標の将来の予測(例)

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