農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

交雑抑制管理技術のための開花重複度評価指標

[要約]

2種の開花数の増減を確率密度分布として捉え、2つの分布間の類似度を示す指標を「開花重複度(S)」と定義することにより、開花重複日数など従来使われてきた指数より正確な交雑可能性の定量的評価が可能になり、交雑抑制のための時間的隔離が高い精度で行えるようになりました。

[背景と目的]

これまで、同種の異品種間や作物と近縁野生種間の交雑を抑制するために、開花期をずらすなどの時間的隔離を行う際には、開花重複日数などの指数による評価が行われてきました。しかし、開花重複日数と交雑率の対応関係はあまり良くなく、どの程度まで開花をずらせばよいのか明確な結論が得られませんでした。そこで、交雑率との対応関係がより密接な開花重複度を指標とする評価手法を開発しました。

[成果の内容]

開花の重複程度と交雑率の関係を明らかにするために、ダイズ Glycine max と交雑可能な在来野生種であるツルマメ Glycine soja 図1)を対象に、播種日を変えながら両種を栽培し、花数の増減を数え上げるとともに、最終的な交雑率を調べました。従来使われてきた指標である開花重複日数(図2)では開花の重複程度を正確に反映することができず、交雑抑制のための時間的な隔離を行う上での障害となっていました。そこでツルマメとダイズの花数の増減はガンマ分布でよく近似できることから、開花の推移を表現する確率密度分布間の類似度を開花重複度と定義しました((1)式)。実際にダイズとツルマメを隣接して栽培した場合の交雑率を見ると、今回開発した開花重複度の方が開花重複日数よりも交雑率との対応関係が良くなっており、開花の重複程度の交雑率への影響がはっきりわかります(表1)。

あらかじめ開花分布が知られている、あるいは何らかの方法で開花分布を予測できるものであれば、そのデータを開花重複度と組み合わせることで、交雑防止のために十分な隔離距離を確保できない場所においても、交雑の可能性のある2品種を栽培することができるか見きわめられるようになります。この指標を用いて時間的隔離を行うことで、品種間交雑を抑制しなければならない採種用栽培の品質管理や、作物との交雑による野生植物の遺伝資源の保護などにも役立つと考えられます。

リサーチプロジェクト名: 遺伝子組換え生物・外来生物影響評価リサーチプロジェクト

研究担当者: 生態系計測研究領域 大東健太郎、 生物多様性研究領域 吉村泰幸、松尾和人、水口亜樹(現:福井県立大学)

発表論文等: 1) Ohigashi et al., J. Plant Res. (2013)

図1 ツルマメの花/図2 開花重複度のイメージ

表1 交雑率と開花重複日数、開花重複度の関係

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