農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)
主要成果
カゼインを添加してRNAの土壌粒子への吸着を阻害することにより、世界で初めて黒ボク土壌から高純度のRNAを抽出する手法を開発し、土壌中でアンモニア系窒素肥料の分解に関わる土壌微生物遺伝子の発現を検出することに成功しました。
肥料の分解や農耕地土壌からの温室効果ガスの発生などに関わる微生物の働きを明らかにするためには、土壌中で生育している微生物のRNAを抽出し、それぞれの現象に関与している遺伝子の発現を解析する必要があります。ところが、土壌、特に日本の農耕地土壌で主要な黒ボク土壌からRNAを抽出することは極めて難しく、黒ボク土壌での微生物の遺伝子発現解析は事実上不可能でした。そこで、黒ボク土壌から、高純度のRNAを抽出する方法を開発し、実際に肥料分解に関わる遺伝子の発現解析を試みました。
黒ボク土壌は、RNAの吸着力が特に高いことから、RNAの抽出は極めて困難でした(図1)。そこで、黒ボク土壌のRNAの吸着力を弱める物質を種々検討した結果、牛乳に含まれるタンパク質、カゼインが土壌へのRNAの吸着を効果的に抑えることを見いだしました(図1)。市販のカゼインには、RNAを分解する酵素、RNase が混入しているため、RNA抽出の際にはオートクレーブで熱処理して RNAase を失活させたカゼインを用います。このカゼインを用いた新しい土壌RNA抽出法を用いると、黒ボク土壌ばかりでなく様々なタイプの土壌から高純度のRNAを抽出することができるようになりました(図2)。この方法は、土壌RNAの標準的な抽出法として利用が期待されます。
この開発した方法で黒ボク土壌から抽出したRNAを用いて土壌微生物の遺伝子発現の検出を試みました。黒ボク畑土壌にアンモニア系窒素肥料を添加してRNAを抽出し、土壌微生物のアンモニア酸化酵素遺伝子の発現を、PCR-DGGEと呼ばれる方法で解析しました。その結果、土壌中のアンモニアが硝酸に酸化されるにしたがって、アンモニア酸化酵素の mRNA が増加することが確認され、これまで困難だった黒ボク土壌における微生物の遺伝子発現解析が可能であることが証明されました。本研究成果は、農耕地など様々な土壌における微生物の働きを明らかにする研究の基盤となるものです。
本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究 「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発」 による成果です。
リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物生態機能研究領域 王勇、長岡一成((独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター)、早津雅仁、酒井順子、多胡香奈子、藤井毅
発表論文等: 1) Wang et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 96: 793-802 (2012)


