農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)
主要成果
マツモトコナカイガラムシのフェロモンは、他のコナカイガラムシ類のフェロモン(モノテルペン)とは全く異なるヘミテルペン系化合物であることを明らかにしました。この物質は簡単に合成できるため、本種の防除にすぐに活用できるものと見込まれます。
マツモトコナカイガラムシはブドウ等の果樹を加害します。根際等の目立たないところで繁殖し、殺虫剤による防除が難しい害虫として知られています。本種のメス成虫が放出するフェロモン物質はオス成虫を強力に誘引します。この物質を利用すれば、この害虫の発生を効率的にモニタリングしたり、配偶行動を撹乱したりすることができます。このような殺虫剤を減らした環境に優しい害虫防除技術開発に役立てることを目的として、本研究ではこのフェロモン物質の化学構造解析を行いました。
マツモトコナカイガラムシ Crisicoccus matsumotoi (Siraiwa) (図1) のメス成虫を大量に飼育し、約10万頭のメスが一日当たりに放出する量の匂いを吸着剤によって捕集しました。この中から、オス成虫に対し誘引活性を示す物質を、液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーによって単離しました。この物質を質量分析計や核磁気共鳴装置で分析し、その構造をイソプレニル 5-メチルヘキサノエート(iP5MH)と決定しました。この物質はヘミテルペン系の化合物であり、これまでに知られているコナカイガラムシ類のフェロモン(モノテルペン系エステル)とは全く異なる構造でした(図2)。iP5MH を天然物として単離・発見した研究はこれがはじめてです。
本種による被害が見られる島根県農業技術センター内のブドウ園において、iP5MH の誘引活性を調査しました。調査は同センターが担当し、0.1 mg の iP5MH を誘引源としたトラップを設置したところ、大量のオス成虫が捕獲されました(図3)。
iP5MH はイソプレノールと5-メチルヘキサン酸のエステルです。いずれも市販されている比較的単純な化合物であるため、iP5MH は簡単に合成できます。したがって、他のコナカイガラムシ類のフェロモンよりも低コストで大量に供給することができます。この物質をトラップとして活用すれば、本種の発生状況を効率的に調査できるようになり、幼虫の発生時期や量を高い精度で予測すること(発生予察)が可能となります。さらに、オスによるメスの探索を邪魔して交尾・繁殖を妨げることもできると考えられます。
リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 田端 純、平舘 俊太郎、杉江 元、奈良井 祐隆(島根県農業技術センター)、澤村 信生(同左)
発表論文等:1) Tabata et al., Naturwissenschaften, 99:567-574 (2012)
2) 田端ら, 特願2011-126846 (2011)