農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

ハイパースペクトルリモートセンシングによる作物特性評価法とその水稲生育診断・収穫管理への応用

[要約]

ハイパースペクトルリモートセンシングによって植物の生理生態・生育情報を広域かつ迅速に評価するための汎用的解析法を確立し、水稲の施肥診断に重要な群落窒素含有量および収穫管理に重要な玄米タンパク含有率を広域評価する新手法を開発しました。

[背景と目的]

植物の量・成分・機能に関する広域的情報は、農業管理の最適化(精密農業)や自然植生の劣化、炭素・窒素循環等を定量的に把握する上で重要な基礎となります。

そこで、超波長解像度(ハイパースペクトル)リモートセンシングを用いて、従来の方法では困難であった成分情報の推定に最適な分光指数を決定する方法を策定するともに、それに基づいて、水稲群落の診断管理に重要な窒素含有量および玄米タンパク含有率の最適評価アルゴリズムを開発することを目指して研究を行いました。

[成果の内容]

1.ハイパースペクトルセンサによって得られる数百におよぶ多波長データの全体を用いる多変量回帰法、ならびに有効な少数の波長を選定して用いる分光指数法を総合的に比較解析し、目的変量の推定に多波長データを効果的に利用する手順を提案しました(図1)。

2.2つの波長 (i, j nm) における反射率 (Ri, Rj) や反射率の1次微分値 (Di, Dj) の差を正規化する分光指数 NDSI および両者の比をとる指数 NRSI について、選択可能なすべての波長の組み合わせで指数の推定力(分光指数の目的変数に対する回帰の r2 値)を計算し、その分布図から、形質ごとに最適な波長と波長幅を選定します。この方法は簡易なだけでなく、測定ノイズの影響を軽減する効果があり、多数の波長を用いる多変量解析法( PLS 法や iPLS 法)に匹敵あるいはそれらに優る推定力があることを明らかにしました。

3.生育診断や収量予察に重要な幼穂形成期の群落窒素含有量の推定では、iPLS 法にも優る最高精度をもつ新指数として NRSI (D740,D52) を開発しました。その再現性と有効性は、航空機センサによって得られた地域スケールのデータで検証されました(図2)。

4.コメの品質向上のために重要な玄米タンパク含有率の推定では、新たな高精度評価指標として NDSI (R970,R570) を開発し(図3)、従来の植生指数 NDVI よりも優れた指標として、圃場ごとのデータに基づいた産地規模の計画的な収穫管理に活用されます。

現在、世界各国でハイパースペクトルセンサを搭載した衛星の打ち上げが計画されており、本研究で得られた手法と知見は、今後、精密農業や収量予察、品質向上のための作物情報計測や、植生の劣化、炭素・窒素循環解明への応用等、多面的な活用が期待されます。

本研究の一部は 文部科学省宇宙利用促進調整委託費 「食糧-環境インテリジェンスのための生態系リモートセンシング」 による成果です。

リサーチプロジェクト名:農業空間情報・ガスフラックスモニタリング リサーチプロジェクト

研究担当者:生態系計測研究領域 井上吉雄、境谷栄二(青森県産業技術センター)

発表論文等:1) Inoue et al., Remote Sensing of Environment, 126: 210-221 (2012)
2) 井上ら, 日本リモートセンシング学会誌, 28: 317-330 (208)

図1 群落のハイパースペクトル計測データと分光指数法

図2 水稲群落窒素含有量評価に有効な新たな分光指数

図3 玄米タンパク含有率評価のためのNDSI推定力図

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