農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

デジタルカメラを活用した作物生育モニタリング

[要約]

デジタルカメラ画像を用いて作物群落の形態的特徴(葉面積指数・地上部乾物重)の季節変化を把握できる植生指数を考案し、デジタルカメラを活用した作物生育モニタリング手法を開発しました。

[背景と目的]

作物の生育不良をいち早く察知するには、平時から生育状況を定期的に調査・記録する必要があります。そこで、市販のデジタルカメラを使った簡易な生育モニタリング装置を作成し、カメラ露出情報を考慮した新たな植生指標を考案することで、作物群落の形態的特徴の時間変化を捉えることのできる作物生育モニタリング手法を開発しました。

[成果の内容]

1.生育モニタリング装置(図1)は、安価なデジタルカメラ2台から構成される簡易なものです。1台のカメラには、近赤外撮影用にバンドパスフィルタを装着しています。水稲(つくば市, 富山市)、トウモロコシ・大豆(米国ネブラスカ州)を対象にした圃場観測試験を 2007 年 〜 2010 年に行いました。

2.カメラ露出(絞り値・シャッター速度・ISO 感度)を用いた補正処理を行い、入射光の相対変化量を考慮した2種類のデジカメ植生指数(ev-CIgreen と NRBINIR )を新たに考案しました。ev-CIgreen は昼間撮影による近赤外画像とカラー画像(緑バンド)から計算されます。NRBINIR は、夜間フラッシュ撮影の近赤外画像から計算される点で、他に例のない植生指数です。

3.定期的に取得された作物生育調査データと2種類のデジカメ植生指数を比較した結果、NRBINIR は、トウモロコシ・大豆の地上部乾物重(子実除く)と、ev-CIgreen は、同作物および水稲の葉面積指数 (LAI) と高い相関関係を示すことが確認されました(図3)。

4.本手法により、作物の生育履歴を低コストで連続的に記録・保存することが可能になりました。デジカメ植生指数データを蓄積し(図5)、過去のデータと比較することにより、現在の作物生育状況を容易に判断し、栽培管理に活用することができます。また、作物生育の広域調査を行う際に用いる衛星画像の地上検証データとして利用することも可能です。なお、市販のデジタルカメラで使われているセンサーの感度特性は製造メーカー・モデルによって異なるため、本成果の活用にあたっては実測データに基づく校正作業が事前に必要になります。

本研究は、JSPS 海外特別研究員制度におけるネブラスカ州立大学 (UNL) との共同研究、および、(独)国立高等専門学校機構 富山高等専門学校、富山県農林水産総合技術センターとの共同研究による成果を含みます。

リサーチプロジェクト名:農業空間情報・ガスフラックスモニタリングリサーチプロジェクト

研究担当者:生態系計測研究領域 坂本利弘、芝山道郎(現:鹿児島大学)

発表論文等:1) Sakamoto et al., Photogramm. Eng. Remote Sens., 76: 713-726 (2010)
2) Sakamoto et al., ISPRS-J. Photogramm. Remote Sens., 66: 872-882 (2011)
3) Sakamoto et al., Agric. For. Meteorol., 154-155: 113-126 (2012)

図1 生育モニタリング装置の外観/図2 トウモロコシ撮影画像(2009年)

図3 地上部乾重とNRBINIRの比較/図4 葉面積指数(LAI)とev-CIgreen)の比較

図5 作物生育に伴うデジカメ植生指数の季節変化

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