農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

水田のデータベースと数理モデルによるメタン排出量の広域評価

[要約]
全国の水田について土壌、気象および栽培管理のデータベースを作成し、数理モデル DNDC-Rice で計算を行い、水田の排水条件や気象の影響も反映した温室効果ガスのメタン排出量を詳細に推定しました。
[背景と目的]
メタンは水田から排出される温室効果ガスです。現在、我が国の温室効果ガスインベントリにおいて、水田からのメタン排出量は、土壌タイプ等によって定める排出係数を用いて推定されています。ただし、この排出係数では、圃場の排水条件や気象の影響を反映できません。そこで、全国の水田について、新たに作成した土壌、気象および栽培管理のデータベースを数理モデル(DNDC-Rice)に入力してコンピュータで計算させることにより、圃場条件や気象の影響を反映したメタン排出量を詳細に推定しました。
[成果の内容]
デジタル土壌図などのデータに基づき、全国の水田およそ200万ヘクタールを16の土壌タイプと排水条件(土地利用基盤整備基本調査における排水量と地下水位)の組み合わせで96通りに分類しました。さらに、全国を137の地域に分け、それぞれについて気象データとともに水管理や有機物投入量などの栽培管理データを揃えたデータベースを作成しました。これらのデータを当所で開発した数理モデル(DNDC-Rice)に入力し、全国の水田から排出されるメタンの量を推定しました(図1)。さらに、北海道の水田について、水管理改良の効果を推定しました。
その結果、京都議定書の基準年である1990年に全国の水田から排出されたメタンは28万9千トンとなり、従来の排出係数による推定値(33万2千トン)より約13%少なく推定されました。また、北海道の水田の水管理改良によるメタン排出削減効果を計算すると、中干し日数を増やすことでメタン排出量を最大37%(総量として1万8千トン)削減できると推定されました(図2)。ただし、中干し日数を増やす場合は、気象との関係により低温障害、高温障害等のリスクに留意する必要があります。
このように、詳細なデータベースと数理モデルを用いることにより、全国の水田から排出されるメタンを精緻に推定することができます。この方法によれば、水管理の改良によるメタン排出削減効果や、将来の気候変動がメタン排出量に及ぼす影響を予測することもでき、農業分野からの温室効果ガス排出量の削減に貢献します。
本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発」、環境省地球環境研究総合推進費「農業生態系におけるCH4, N2Oソース抑制技術の開発と評価」による成果です。
リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 麓多門、早野美智子、農業環境インベントリーセンター 白戸康人、研究コーディネータ 八木一行
発表論文等:1) Fumoto et al., Global Change Biol., 16: 1847-1859 (2010)
2) Hayano et al., Soil Sci. Plant Nutr., 59: 812-823 (2013)

図1 数理モデル(DNDC-Rice)によるメタン排出量推定の概要

図2 北海道の水田における中干し日数増加によるメタン排出削減効果の推定

目次へ戻る   このページのPDF版へ