農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

黒ボク土の団粒構造の階層性を解明

[要約]
我が国の代表的な土壌である黒ボク土の強固な団粒階層構造は、微細粘土鉱物とアルミニウム・有機物複合体を主成分とする2μm(マイクロメートル)以下の粒子の集合体によって維持されていることを初めて明らかにしました。
[背景と目的]
火山灰からできた黒ボク土は、日本の主要な農耕地土壌です。黒い色、炭素および水分を保持する高い能力、そして良好な水はけや通気性を持つという特徴があります。これらの特徴は、土壌を構成する鉱物粒子および有機物の化学組成、そして鉱物と有機物の結合によって生じる団粒構造に起因すると考えられます。そこで、黒ボク土が優れた特性を持つメカニズムをより深く理解し土壌の炭素貯留や有機物管理に役立てるため、黒ボク土の団粒構造の特徴を明らかにする研究を行いました。
[成果の内容]
世界の一般的な土壌では、土壌中の有機物や微細(粘土)鉱物の働きにより安定的なミクロ団粒(直径53〜250μmの団粒)が形成され、細根、菌糸等の働きによってミクロ団粒が集合してマクロ団粒(直径250μm以上)が出来るという階層構造が示されています。黒ボク土の場合、ミクロ団粒とマクロ団粒の理化学性に明瞭な差は見られず、両者とも物理的に強固であるため、その団粒形成メカニズムは不明でした。そこで、我々は、農業環境技術研究所構内の黒ボク土畑の表層土壌を用い、異なる強度による団粒の分散実験を行い、分散された粒子の特徴を調べました。
黒ボク土のミクロ・マクロ団粒の崩壊は、土壌をナトリウム塩で飽和させた後に通常使われる機械振とうより5倍以上強力な超音波処理(5kJ/mL)を行うことで初めて実現しました。その結果、ミクロ・マクロ団粒は直径2〜53μm、0.2〜2μm、および0.2μm以下の微細粒子から構成されており(図1)、2μm以下の粒子が土壌全重量の約5割を占めていました。また化学分析から、ミクロ・マクロ団粒を構成していた微細粒子の多くは有機物と無機物の集合体であり、粒径の小さな粒子ほど有機物、非晶質鉱物、金属・有機物複合体濃度が高いという傾向が示されました(図2)。
以上の結果から、黒ボク土には53μm以下の微小スケールにおいて団粒階層構造が存在すること、微細な有機無機集合体の接着機能により強固な団粒構造が維持されていること、そして黒ボク土の炭素蓄積は主に2μm以下の有機無機集合体の中で起こっていることが、初めて明らかになりました。黒ボク土の高い炭素貯留機能の解明には、2μm以下での有機物と無機物の相互作用を明らかにする必要があると考えられます。
本研究は日本学術振興会・最先端・次世代研究開発支援プログラム「地球炭素循環のカギを握る土壌炭素安定化:ナノ〜ミリメートル土壌団粒の実体解明(課題番号:GR091)」による成果です。
リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 浅野眞希、和穎朗太
発表論文等:1) Asano and Wagai, Geoderma, 216:62-74 (2014)

図1 黒ボク土の団粒構造の概要

図2 団粒の分散後サイズごとに分画した粒子の化学的特徴

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